完結 やる夫は浪速の商人になるようです

by ◆8epcM/V4rs    last update : 2014/12/13 18:09:39

ファイルサイズ285 KB

最終更新日2014-12-02 20:37:49

コメント0

やる夫は浪速の商人になるようです 第一章

http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12973/1388654953/

1 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/02(木) 18:29:13 ID:bfCLa6cA0


              _____
            /         \
           /            \
         /     \,      ,/     \
          /  /:::::::`ヽ   /´:::::::`ヽ  \
      /    (:::::::::::::・ l    l ・::::::::::::::)    \    【一つの味】
      |     ヽ::::::::::::ノ   ヽ:::::::::::ノ     |
      |    ''"⌒'(    i    )''⌒"'     |   やる夫は浪速の商人になるようです
       \       `┌,─'^ー,,-┤       /
        \     `ー -- -一'     /                    【一つの恋】
        /                 \
       / ̄ ̄ヽ;               ヽ
       (「    `rノ                |
       ヽ   ノ              i   |
       i´ ̄ ̄`i                 l   |


.

2 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/02(木) 18:31:28 ID:bfCLa6cA0


      |´|
      |´|
      |´|
      |´|
      |´|
      |´|            ・ 本スレは、高田郁『銀二貫』(幻冬舎時代小説文庫)を
      |´|             やる夫スレ化したものです。
      |´|
.     _,k|´|‐´`ー''7____      ・ 本作品は、江戸時代の大坂を舞台としておりますので、
   k'´: : |´|: : : : : : : :<__      やる夫たちがいつもの特徴的な語尾(~だお、~だろ)を用いず
   <´ : : :|´| : : : : : : : : : ,>     浪花言葉(大阪弁)を話しております。
  / : : : |´|: : : : : : : : : :,>
  `> : : : |´| : : : : : : :_: : `.、   ・ >1は関西文化圏の水を飲んで育ってはおりますが、
   `、 _,;,;,|´|;_: : : : :,/ .iイ ̄    生粋の大阪人ではございません。
.   ,f´  . ̄ `ヽi'´ `´ ,!      したがって、登場人物の話す浪花言葉が
  /      , '´:`.、-‐'       正しい浪花言葉ではない可能性もございます。
  ,!,,,,,,,,,,,,__  ',:.:.:.:.:ヽ
 f":::::::::::::: ̄`ヾ、:,;/,!      ・ ネタバレは何卒ご勘弁のほど、お願い申し上げます
 i::::::::::::::::::::::::::::::::i ̄
 ヽ,;__'、;;;;;;;;;;;____;イ
.  `ー'    `ー'


.

8 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:00:36 ID:XDxaaqIE0










                         第一章


                        仇討ち買い









.

9 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:01:36 ID:XDxaaqIE0



   。 o     ゜      .  。    ゚        o    。
 ○     ゚  。  ゜     o              o       o
            o          ○      。   .    ゜      ゚
 o   ゚   。    安永七年、睦月          o   。       。
             o     o     .   ゜    ゜       ○
  。             ゚     o      ○     o  ゚   o
    ゜    o   ゜            。                ○
゜    ○             o      o      o   ゜    。
 o ゜      .   ○    ゜          ゜             o
_\  _   ゜         。    。   ゜      o    _  ○ ̄ ̄
  ○ \    o    ゜               。       / /
 ̄ ̄|__ \\ 、     。     ゜     ゚     ○//。__| ̄ ̄ ̄ ̄
∃  |   |  | l l ゜           ゜    。 l l |  |   |○田 田
    |田 | 。| | l      ゜     ゜    。  ゜   l | |  | 田|    o
∃○|   |  | |。  ゜ . .. ... .. ... . ... ...゜ . .. .. ..    l |。|  |   | 田 田
    |田 |  | l‐    .....   ....     .....     -| |  | 田|
∃  |   |○― ....    o      ....   ○ ..... ―  |   | 田 田
   o.... 一      ....     ○    ...  o   ....  ー- | 。
―  ̄   o   ⌒                          ̄ ― -
  ....               ....        ⌒   o  ....      ....



.

10 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:02:12 ID:XDxaaqIE0


      大坂 天満の寒天問屋井川屋の主であるダディは

       京都伏見から自らの店への帰りを急いでいた。


              /\___/ヽ
              /''''''   ''''''::::∪:\
            |(ー),   、(ー)、.::::|
            |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::::|
            | ∪ `-=ニ=- ' .::::::::|
              \  `ニニ´  .:::::/        ふぅ…ふぅ……
              /:: ::\  //::::: \
             /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\      さすがにこんだけ冷えると
            /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i
           f´:: ::i;;:: :: :: /:: :: :: :|;;;;;;;;:::|     膝にこたえるわ……
          __r''ヽ:::|;;;;::/:: :: :::;;;;;:::ヽ;;:: :ノ
         i"  )ノ:: ::と;;;;:___;;;;;;;;;;f゙;;ノ
         `l Tl::U:::/|;;;; ______:;;;;;{
          |. | |:: :丿|:: :: :: :: :: :: ;;;;;;;;:: |
          |. | `'''"l;;|:: :: :: :: :: :: ;;;;;;;;:: |
          | |    |;|:: :: :: ::;;;;;;; :: ::;;;;;│
          | |.   |;|:: :: :: :: ;;;;;;; :: :;;;;: |
          | |   |;;|;;:: :: :: ;;;;;;;:: :: ;;;;:: |
          | |   ー!、:;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::;;;;;;;ノ
          l |     〉. !,    ノ  !、_
          !_|  、‐''゙ _)   (____ヽ

           寒天問屋 井川屋ダディ



      早朝から降り出した雨が雪へと変わり、

      ダディのほかに通行人の姿はなかった。


.

11 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:03:13 ID:XDxaaqIE0


    ときおり足をとめ、懐に手を入れて中のものを確かめる。


              /\___/ヽ
              /''''''   ''''''::::∪:\
            |(ー),   、(○)、.::::|
            |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::::|
            | ∪ `-=ニ=- ' .::::::::|
              \  `ニニ´  .:::::/
              /:: ::\  //::::: \
             /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\
            /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i     ……よっしゃ、ちゃんとある。
           f´:: ::i;;:: :: :: /:: :: :: :|;;;;;;;;:::|
          __r''ヽ:::|;;;;::/:: :: :::;;;;;:::ヽ;;:: :ノ     落としてへん、落としてへんで……
         i"  )ノ:: ::と;;;;:___;;;;;;;;;;f゙;;ノ
         `l Tl::U:::/|;;;; ______:;;;;;{
          |. | |:: :丿|:: :: :: :: :: :: ;;;;;;;;:: |
          |. | `'''"l;;|:: :: :: :: :: :: ;;;;;;;;:: |
          | |    |;|:: :: :: ::;;;;;;; :: ::;;;;;│
          | |.   |;|:: :: :: :: ;;;;;;; :: :;;;;: |
          | |   |;;|;;:: :: :: ;;;;;;;:: :: ;;;;:: |
          | |   ー!、:;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::;;;;;;;ノ
          l |     〉. !,    ノ  !、_
          !_|  、‐''゙ _)   (____ヽ


        そのたびに、重い吐息をつくのだった。


.

12 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:03:51 ID:XDxaaqIE0


                               ,,.-──-,、        o     。
゜     o ||~'i                    ,.r'.:. :. . :. .. :.:ヽ  。 o  。
o      ||  .|    /⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒\ (,;.;: ,;: , ;: ,; ,; ,, ;ヾ     o  。   。  o  。
   o  。||茶.|  /丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶\;.:.:..:.;,;i.;:.;:.;:,;:..;:,;      o     。)
      . ||  .|//\丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶\.:.;:..i.:.:.:.:.:/.:ノ。 o  。
     o ||店.|/ 田 \丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶\人从ノ:::,)     o  。   。  o  。
o  o。 . ||  .| ̄ ̄ ̄ ̄|  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄ | |il .: .i;;i|,r'      o     。
     o ||   。 ̄ ̄|!| ハ__ハ        ∧∧!. | |il , ;illll|  。 o  。
。 o  。 ..||  .|!|___|!| ( ・ω・)ノ      (*゚∀゚) | |l.: . .illl|      o  。   。  o  。
    o  || . 。  o  。 ̄ ̄ ̄ ̄|  旦 ノ(  (ヽ-ooo- ill|
       l ̄i |__(,,゚ω゚).|____| |i ̄i|| ̄ > > ̄|i ̄l| ,,.;;,丶
      ""''''"  c(,,____,)


     γ::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ、
     /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
   γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ     ダン
   (:::::::::/ ─    ─ \:::::::)    旦那さん、
   \:/  (⌒)  (⌒)  \ノ
    |     (__人__)     |      井川屋の旦那さんやおへんか?
    \    ` ⌒´     /
    /            /
    \       (__ノ


         道筋にある茶店の女将が、めざとくダディを見つけて声をかける。


.

13 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:04:38 ID:XDxaaqIE0


      γ:::::::::::::::::::::::::::::::ヽ、
      /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ      どうぞ寄っていっておくれやす。
    γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ
    (:::::::::/ ⌒    ⌒ \:::::::)    旦那さんの好物の羊羹が、
    \:/  (⌒)  (⌒)  \ノ
     |   /// (__人__) ///.  |     丁度いま、蒸し上がったとこでっさかい。
     \     ` ⌒´    /


        /\___/ヽ
        /''''''   ''''''::::∪:\
      |(○),   、(ー)、.::::|      (羊羹か…)
      |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::::|
      | ∪ `-=ニ=- ' .::::::::|
        \  `ニニ´  .:::::/
        /:: ::\  //::::: \
       /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\


             ダディは竹の皮に包んで蒸した羊羹、

     それも蒸したてのぬくぬくと湯気の上がった羊羹に目がなかった。


.

14 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:05:24 ID:XDxaaqIE0


     /\___/ヽ
    /''''''   ''''''::::∪:\
   |(●),   、(●)、.::::|     ほな、いただこかい。
   |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::::|
   | ∪ `-=ニ=- ' .::::::::|
    \  `ニニ´  .:::::/
     /:: ::\  //::::: \
    /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\


      γ::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ、
      /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
    γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ
    (:::::::::/ ─    ─ \:::::::)   へえ、おおきに。
    \:/  (⌒)  (⌒)  \ノ
     |     (__人__)     |     まいどありがとさんでございます。
     \    ` ⌒´     /
     /            /
     \       (__ノ


.

15 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:06:07 ID:XDxaaqIE0


        _____
    γ::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ、
    /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
  γ:::::::::::人::::人::人:::人::::::::ヽ      難儀な雪どすなあ。
  (:::::::::::/ /    \ \:::::::)
  \:/  (─)  (─)  \ノ      ほんに酷なこと。
   |   ::::::::(__人__):::::::::  |
   \    ` ∨´     /       あ、どうぞ、火ぃに近いところでお座りください。
   /       ー‐      \


       /\___/ヽ
      / '''''':::::     \
     |)  、(一 ).:::::::::+::::::::|
     |( _ ,)ヽ、,, .::::::::::::::::::::::|      おお、すまんなあ。
     `=ニ=- ' .::::::::::::::::::::::|+
       `ニ´ .:::::::::::::::::::+/      助かるわ。
      /`'ー‐---‐一'´\
     /         ::::i ヽ
     |  |        :::;;l  |


.

16 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:06:36 ID:XDxaaqIE0


        _____
    γ::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ、       はい、羊羹お待たせしました。
    /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
  γ:::::::::::人::::人::人:::人::::::::ヽ     けんど、こんだけ冷えたら
  (:::::::::::/ ─    ─ \:::::::)
  \:/  (⌒)  (⌒)  \ノ     寒天の出来もよろしおすやろ。
   |   ///(__人__)///  |
   \    ` ⌒´     /      商売繁盛でよろしおすなあ。
   /       ー‐      \


           /\___/ヽ
           /''''''   ''''''::::∪:\
         |(ー),   、(ー)、.::::|
         |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::::|
         | ∪ `-=ニ=- ' .::::::::|   …せや…なぁ……
           \  `ニニ´  .:::::/
           /:: ::\  //::::: \
          /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\


               ダディの表情が曇る。


.

17 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:08:38 ID:XDxaaqIE0


     ,. -‐―――‐-、
    γ::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
   /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
  γ:::::::::人::::人::人::::人::::::::ヽ
  (:::::::::/( ○)  (○)\:::::::)     ほ、ほな、どうぞごゆっくり。
  \:/::::::⌒(__人__)⌒::::: \ノ
   |     |r┬-|     |
   \      `ー'´     /


     ダディの沈んだ表情に何かを感じとったか、

      逃げるように女将が奥へと引きかえす。


.

18 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:09:16 ID:XDxaaqIE0


        ダディは、伏見の寒天製造元、美濃志摩屋に

        貸し付けてあった銭を取り立てた帰りであった。


      /\___/ヽ
      /''''''   ''''''::::∪:\
    |(ー),   、(ー)、.::::|
    |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::::|    (美濃志摩屋さん……)
    | ∪ `-=ニ=- ' .::::::::|
      \  `ニニ´  .:::::/     (この銀二十貫を用立てんのに
      /:: ::\  //::::: \
     /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\     どんだけ苦労しはったことか…)
    /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i


.

19 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:09:59 ID:XDxaaqIE0


     美濃志摩屋はダディが若い時分に修行をさせてもらった恩義のある店であった。

   ダディが井川屋を立ち上げた後、幾度か借財を頼まれ言われるがままに融通してきた。


     .:/\___/ヽ: .
    :/         \:
   .: |:::.          | :
  . : |::::::.             | :     (親替わりの店に頼まれて用立てた銭や、
  . : |:::::::.          | :
    :\:,..-''ニニニニニニニ.V : .     もとより返してもらうつもりなんぞあらへん……)
  ,,....--'''':::..     ..    ゙-、. :
  :::::  ::.      i     ヽ i :   (それをいまさら取り立てるような真似をせんならんとは……)
  :::::  |::::      |:::.     i | :
  :::::  |:::::.     .(:::::     :||:


             その銭を、取り立てなければならない事情があった。


.

20 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:11:22 ID:XDxaaqIE0


  ことは、およそひと月前に、大坂は天満で起きた大火に端を発する。



 人
  人    从    ゴオオオオオオオ…
  ̄ ̄|\  /:人:丶
    |人(::( ):::ヽ人               从   /:人:丶
   丿::::::丿  レ、::::::)从       人    ヽ人(::( ):::ヽ人
  从(:::人::(    ):::::::::::人:ヽ从   /:人:丶 Yヽ::::::丿(:::::::::::::::\;".
 :::::::ノ      (ノ):/ 丿:::::::ヽ人(::( ):::ヽ人
 :::(            (::人_/Yヽ::::::丿(:::::::::::::::\;".
 人           从   /:人:丶       从   /:人:丶
  ̄ ̄|\  /:人:丶  ヽ人(::( ):::ヽ人       ヽ人(::( ):::ヽ人
    |人(::( ):::ヽ人 Yヽ::::::丿(:::::::::::::::\;".       Yヽ::::::丿(:::::::::::::::\;
   丿::::::丿  レ、::::::)从       人      从   /:人:丶
  从(:::人::(    ):::::::::::人:ヽ从   /:人:丶   ヽ人(::( ):::ヽ人
 :::::::ノ      (ノ):/ 丿:::::::ヽ人(::( ):::ヽ人  Yヽ::::::丿(:::::::::::::::\;".
 :::(            (::人_/Yヽ::::::丿(:::::::::::::::\;".


   天満焼け、と呼ばれたそれは五千六百もの人家を焼き払い……


.

21 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:11:45 ID:XDxaaqIE0


                                    __
                                    /|: : :.:::|
                                l   | : : : :|
                                 |   |: : :. .:|
                                 |   |: : : :.:|
  iv'ヘ                                |  |:|l==|
  | ;`;|                            |  |:|》: ::::|        i'1
  | ;'l:|           i'`'i             、       /|  |:|\ : |  .      |;'|       ,、
  !:`l'|  ζ\     |;`;|             ∥       〕 .|  |:|  || | ./\   _.|;'|       /.:〉
-、_|_.;l:|   \';、\  :|':i;;|     .  i'1   ||/>  r┘.:|  |:|  ||::| |  ∥‐┘ .:|';|──へ./.:/_r‐
ー|_}:;|    \';、.\|;';;;|   ./〉 |;|_r//  /| ̄\:|  |:|   ̄ .:〃../>.::|;'|:::::::::::::::/.:/:::::::::::
-|_|`|_r:‐:‐:‐:‐\';、\;| r‐//┐_|:|::::::::;⊥、r/.::| .:::::::|/\/\   《// ..:::|;'|:::::[]::::/.:/]:::::::[]::
ー|_};|::::::::::: : :: : {二l\;i`!、::://:::::::::::::::::::r| .::| /.:::::<\/   〈:::.:... \ 》 ' .::::::::/|\_n::::::::::::::::::::
-|_| ̄/\:::::::/`|_{┬| |;、\::::::::i'|::::::r┴冂、 .:::::|::\\ _____:::::.:..〉″へ:::::/ .| |: : : |:|::::::::l`!へ、
ー|_}::/ 、';';〉.:/ /{_|┴lニニニニニl.r┴、_|_|_|:>:::::___|」__:l;_;_//..::. `〈 :| |: : : |:|::::::::| |: : :
-|_;l'_;_;_∠;/_/___l_,,:;;}┬┴┬┴┬┴┐::| .:::|_rェ┘__;!___;!__;|_;_;:::.:/ : :| |: : : |:|::::::::| | : :
~゛'' ┘⊥ 」_ |  |{_|┴┬┴┬┴┬┴┤ .:|_;!__;!__:l__;!__;|<___;_/\_;_;_;|;|-∠|_|;_;_;
         ~゛'''' ┴'::⊥Λ二\.:|  .:|ー:|__;!__;!__;!__:l__;l:::...\/<>::.  ∠二
 `     , '  .   `   ∨_,,,;;;;/. ~゛`┴ -'⊥ .」_;!__;!__;!__;!_;ト、 r─‐-、   ...:.:.:.::.:
             ,                 ~゛ ┴  ⊥. .,_..:::| ::/ ̄. ̄'"ヽ┴-、_;_;_;_;_;_;_
                     ,,       `            ~゛'' ‐-|\___ト--/.. ...:::::::./|
  `             .,     `    ,.            '     \|__;_;_;_;_;!─l二二二l/


   大坂町民の心のよりどころであった天満天神宮までも焼失させたのであった。


.

22 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:12:18 ID:XDxaaqIE0


             井川屋自身は類焼を免れたが、

       周囲がそのような状況では商いの先行きは暗かった。


      /\___/ヽ
      /''''''   ''''''::::∪:\
    |(ー),   、(ー)、.::::|
    |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::::|   (わたいの商いのことだけやったら美濃志摩屋さんに
    | ∪ `-=ニ=- ' .::::::::|
      \  `ニニ´  .:::::/    そんな無理強いるつもりもあらへなんだが……)
      /:: ::\  //::::: \
     /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\
    /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i


      /\___/\
    .  /        ::\
   . |               :|
   . |   ノ   ヽ、   :|    (美濃志摩屋のご先代に申し訳が立たん……)
   . | (●), 、 (●)、.:::|
      \ ,,ノ(、_, )ヽ、,, ::/
      `ー `ニニ´一''´ \
     /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\
    /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i


.

23 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:13:00 ID:XDxaaqIE0


  これまでは歳のことなど忘れて商いに精を出してきたのだが


         /\___/\
       /        ::\
     .  |               :|   (わたいも来年で還暦や)
     .  |   ノ   ヽ、   :|
     .  |  _(o)_, 、 _(o)_、.:::|   (火事の後始末やら終わる前に
       \ ,,ノ(、_, )ヽ、,, :/
        `ー `ニニ´一''´      命がのうなるやもしれんな……)
       /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\
      /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i


          老いた身が情けなく、心細かった。


.

24 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:13:35 ID:XDxaaqIE0


         と、思い直したように顔を上げる。


      /\___/\
     / ⌒   ⌒ ::\
  .   | (●), 、 (●)、 .::|      あかん、あかん。
    |  ,,ノ(、_, )ヽ、,   .:::|
  .   |   ト‐=‐ァ'   .::::|      弱気は損気や、
     \  `ニニ´  .::/
      `ー‐--‐‐―´´        せめて気ぃだけでも張って生きんとな。
      /:: ::\  //::::: \
     /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\
    /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i


     背筋を伸ばし、冷え始めた蒸し羊羹に手をかけた。


.

25 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:14:22 ID:XDxaaqIE0


            竹の皮の包みを開くと、

       べったりと小豆色の羊羹が張り付いている。

         ______
        `=、;;;;;,,,,,,,:::,,,,,;;;;;,,,,`""''';;;;,, 、__
         ,.-'゙''''',='";;;;;;;;",-,,;;;;;;゙;;;;;;;;;l;;;;`,、
       /   `ー-...,;;;;;;;;;;;;,-‐/;;;;;;';;;;;;;;;;;;
      ./             `''''''""i;;;;;;;;ヽ
      l                        |;;;;}
      |                       ノ;;;;}
      ヽ、                _,/;;;'゛
        `ヽ、_            ._,,.,;‐';;;;゛゛
          "'''=ー;‐---‐‐'';';"-''"゛
             ~~~~ ̄´



         口に含むと、竹の皮の芳香が鼻に抜け

            餡の甘さが舌の上で躍った。


.

26 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:15:56 ID:XDxaaqIE0


       この茶店の蒸し羊羹は葛粉を用いているらしく、

           もちもちした食感が何とも好ましい。


         /\___/\
       / ―   ー ::\
        |  --、,   、ー-、  .|
        |  ,,ノ(o_o.)ヽ、,  .::|     こんな時かて、
        |   、___   .:::|
       \  `二二´  .::/     美味いもんは美味いんやなあ……
        `ー‐--‐‐一''´
        /:: ::\  //::::: \
       /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\
      /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i


             ダディが苦笑いしたその時。


.

27 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:16:34 ID:XDxaaqIE0


      積雪を蹴散らしてこちらに向かってくる侍の姿が目に入った。


    -=三 =-=三             -=三 / ̄\
                           |    |
                  .         \_/ヽ
             .                   \
         -= =-=三=        -= =-=三=/  ̄  ̄ \
   -=三=                      /     ::\::::ノ\
                - -ヽ       /    < ●>:::< ●>ヽ
              /  (● ●|       |       (__人__)  |
-=三 =-=三  =-=三 `ゝ  (__人)   =-=三\       ` ⌒´  /
             (      |         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ \
         | ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
-=. =- =..-    |                                    |
       .二三 |                                    |
         |__ _____________________|
               ◎                       ◎

                 すぐ後ろを、その息子だろうか、

          九つか十ほどの袴姿の少年が小走りで追いかけていた。


.

28 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:17:21 ID:XDxaaqIE0


 よほど急ぐ旅なのか、男は瞬く前にダディの前を通り過ぎる。


                          / ̄\
                          |    |
                          \_/
                            |
                        / ̄ ̄ ̄ \
                      /   :::::\:::/\
                   _ /    <○>:::::<○>
                 (((とヽ|      (__人__) .j
                   \ \、     ` ⌒´,;/
                ‐=≡ /ー-.l`‐-‐< ̄``ヽ(
                ‐=≡(   ⌒⌒ ̄ ̄`r::\ヽ
    (⌒;;;;,,.       =≡  (´ー-、_,. -‐'´/l  . ヾ_つ
    (⌒;;;;;⌒      ( ̄ ̄ ゝゝ    /
    ;;;; )(⌒;;ヽ;;`)⌒;;,, `゙´ \/    /
    ⌒;ソ⌒;;;;''')ヽ);;;;;;;,,,,,,   (   /
    ⌒;;;;!"''')ヽ);;;;;ソ;;,,,,,,)ソ;ソ \ J


.

29 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:17:59 ID:XDxaaqIE0

     後を追う少年の目が、茶屋のダディを捉えた。

         ____
        /―   ―\
      /  ○   ○  \   …………
      |\⊃ (_,、_,) ⊂/|
      \|   `  J´  |./




                    _|\ _
                  /!l||l! u `ー、___
                 / u  `ー'ノ( u 。/
               / ゚、(●) u `ー'u i
              ( ゚ 。u r(、_, )(●) |
           ,、,r-'⌒ 、u ノr-、 (. 。 `゚ (    …………
         ,-'⌒`ー-'´ヾ,.ーr-、`。´u o ,ノ
         ヽ、_,,,、-、/ミ,ヽ  `''ー- イ-、
             ^~、 ̄r'´ ̄`''jヽ、  〃ヾ
               /  ヽ´{ミ,_   ̄`'''-ヽ
               /  / `'='´l  ̄i'-、_,,ン
             /  /   !。 l  l
   _ _ _ ____ヽ、__l ___ .!。 l__l__,-=-,___
           ,-=-, ∠ヾゞゝヽ ,-≡-,l  l-=二=-,
          └==┘   ̄ ̄ ̄ ヽ==ノヽ=ノ\__/


   否、ダディが口に運ぼうとしている蒸し羊羹を捉えた。


.

30 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:18:39 ID:XDxaaqIE0


            少年は恥じるように顔をそむけると、

        不自然な姿勢のままダディの前を駆け抜けていく。


                                     ___
                                 =二三―  ―\
                                /  ○ :::::::: ○\
                             =二三  ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|
                               , へ         |.| ィ‘
                              (  ,         U/ _
                               `' 〉      ノχ )
                             =二三     )/
                                 ゝ   / /
                                   /  / /
                         .    =二三 / /
                                 ' //
                                 〆


       __/ヽ_∠L_
      /:::::::     ''''\
     .|:::::::::    (●), |
     |::::::::      ,,イ_,`)    (可哀想に……)
   .   |:::::::::      ノ.-=ラ
      \:::::::      `フ     (腹が減ってたまらんのやろなぁ……)
       /`ー‐--‐‐一''´
       /:: ::\  //::::: \
      /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\
     /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i


        ダディは不憫に思って、その小さい背中を見送る。


.

31 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:19:59 ID:XDxaaqIE0


            その矢先に異変が起きた。

  先を急ぐ父子の前に、抜刀した若者が立ちはだかったのである。


   。 o     ゜      .  。  /l ゚        o    。
 ○     ゚  。  ゜     o //          o       o
            o         _//      。   .    ゜      ゚
 o   ゚   。         _/ /          o   。       。
             o _/ _/     .   ゜    ゜       ○
  。         「 V^レ-'゚     o      ○     o  ゚   o
    ゜    o くf彡へ、          。                ○
゜    ○    ノ^Xへ._/   ..,   r‐^‐、   、     o   ゜    。
 o ゜      ×〆\    .( {   {l   l}   } ) ゜             o
_\  _   ゜/  \ノ\__\ ‐-ヽ=''-‐' /    o    _  ○ ̄ ̄
  ○ \    o    \_::::::::::::::::::::::ト┴┴''´  。       / /
 ̄ ̄|__ \\ 、     。 ̄ ̄入|:::|: : : : : `ー-ァ  ○//。__| ̄ ̄ ̄ ̄
∃  |   |  | l l ゜     /   |:::\: : : : : : /。 l l |  |   |○田 田
    |田 | 。| | l      ゜ /   i::::::::::\ : : : :\l | |  | 田|    o
∃○|   |  | |。  ゜ . .. .../    .〕::::::::::::..\: : : :.\。|  |   | 田 田
    |田 |  | l‐    .../     .ヽ::::::::::::::::./\:: : :\|  | 田|
∃  |   |○― ....    /       .〉::::::::::::::::i_  \: : :\  |   | 田 田
   o.... 一      ../       .//::::::::::::::::::\_ .\: :.\ー- | 。
―  ̄   o   ⌒  /      .//::::::::::::::::::::::::::::\ .\: :\   ̄ ― -
  ....         /     .//::::::::::/^\::::::::::::::::\. \: :\     ....


        小柄な身体全体に殺気がみなぎっていた。


.

32 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:20:47 ID:XDxaaqIE0


  侍はとっさに息子を背後に庇い、立ちはだかる若者を問いただす。


                   / ̄\
                  |     |
                    \_/
                   _|___
                 /     \
                /  ::\:::::::/::\
              /    <◎>::::::<◎> \      貴様、何者だ!
               |   .u   (__人__)   |
                \      ` ⌒ ´  ,/
          .      /⌒~" ̄, ̄ ̄〆⌒,ニつ
                |  ,___゙___、rヾイソ⊃
               |            `l ̄
          .      |



      /:::::::/::::::::::::::::/         \::::::::::::::::::.\::::ヽ
     N:::::::./:::::::::::::::/            \::::::::::::::::::ハ:::::V|
     |::ヽ::/:::::::::::::::/               V::::::::::::::::::i::::/::|
     .|::::Y::::::::::::::::i                V:::::::::::::::Y:::::i
     |:::::::::::::::::::::|                 |::::::::::::::::::::::.|
  __.|::::::::::::::::::::|                   |::::::::::::::::::::::|
  ̄   |.:::::::::、:::::::|                     |:::::::/:::::::::::i───
      V:::::::::ヽ:::::|               __∠||::::/:::::::::/     美濃国苗村藩藩士、
      ヽ:::::::::ヽ::::ヽ        _,-‐壬,ィ<ヽリ/:::::::::/
       ヽ:::::::ヽ:::::\        |//弋ノ_ノ /ノ/:::::::::/       彦坂オプーナに相違ないな。
        ヽ:::::ヽ\:::::`ー、__  .|ー、__...,イ´//:::::::/
         ヽ:::::\\_::::::::: ̄ ̄ ̄:::::_//:::::::/
           \::::: ̄フ::>::::::::::::::::::::::ヽ、 ̄::::::::::/
            \:::::::ヽ\:::::::::::::::::://:::::::::/
            ,-─iヽ:::::`ヽ:::::::::/:::::::,-/ヽ、        //
 \         ヽ ヽj_ `ー 、_, -‐   レ ノ      //
 \\       /く   Y ̄iン‐、__,へ/⌒ヽ/ ト     //
 ::::::\\    ∧ `ー、/  i/     |   V-‐' ゝ   //
 ::::::::::::\\,-‐ヘ ヽ  /   !     |   ヽ,-‐'ヽ //
 >:::::::::::::::\\  `ーニ/        ノ    V´ク//


.|

33 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:21:20 ID:XDxaaqIE0


             答えを待つことなく、青年は太刀を振り下ろした。


                  、ェ、_
              yェテ  ,ク匁テ=、
             /iヲ'´ .ⅷ圭/::::::....::ヘ   、              __
          /圭ヤヽ-!ヨl:|ヤ::::::::,'::::,'   /i!           ., < > '.´
          i圭沁,: : :〉ヨ、心、:,':::,イ-,イヨ7       ., < > '.´   父の仇、
          ヽヨi',ヨ,: :ヾ圭ヾヲイテェ圭,イ       ., < > '.´
           /ヨ!ヘハ-'≠'7iテ圭圭ヨ!    ., < > '.´           覚悟っ!!
ニ三ニェェ、___,ェ7圭ヨ圭ヘ__, イ圭圭圭ヨi、., < ,>'.´
テテ≦圭圭圭圭圭≧テ圭圭圭圭圭テ< >'.´
: : : : : : : : >テ幵√天≦圭圭ilテ< >毟圭圭ェェェェェ、_      _, ...:ェェエ三三三三二ニェ:.、__
: : : : : : : : :/:.:.:.:./: : : : : : :, < >彡圭圭圭圭圭圭圭圭圭ヨ>ェ二三圭ヨ>テ'"´: : : : : : : : : : : >ー-
: : : : : : : /:.:.:.:.:./~: : :., < >'フ>、圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭圭>テ' ̄: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
___,ィ:.:.:.:./:;:,<  >':´::/.:.:i:ヤ:.:.:7テ≡三圭圭三≡テ'": : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
\ヤ i /≧二ヘ、_,>く:.:.:.>':i |:.:.i!:::ヤ:7: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :.:,:_:_: : : : : : : : : : : : : : :.
: :>ヽ〃≦三三三ヲ三三≧ェヤ:.':.:.:Ⅵ: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :`゙''ー-、,_ : : : : : : : : :.
洲抂气圭圭ヤ:./: :_:_:ヘ:.:./:.//:.:.i:.:.i!: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :>、: : : : : : : : .
圭戓テ': : : : >-、__>三三7i==、i〉、ヘ: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :\ . : : : : : .


.

34 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:22:00 ID:XDxaaqIE0


                   侍の顔から鮮血が散る。


         ,,、                  、
         `'ミ'‐ ,,、            リ、
           \ `''ー ..,_   .゙ミ'ー ,,,、 .|.ヽ
             \    .`゙"''''''゛   `゛ ヽ      i、
              \                ヽ,    ,バ,
               ヽ                `'-  ‐゛ ..l,
        _______ゝ           _、         ヽ
            ̄'''''ー ,,_           ,i'´   . ´゙'''.ー      l,
               ___>     │         `''‐、.  ヽ
          -ニ二 ̄ ̄        !            `'‐ ヽ
     /       `''-、.        .l              `'' \
               `'-,       l,           \
              /  `┐      ゙'、    /       \
            /    、i|_      ゙'、:::: /::::::..       \
           /       _`''-、    .ヽ/:::::::::::.. _       \       ぐおっ!!
         /      /,..::::::::::.ヽ_,ゝ    \::::/,..::::::::::.ヽ\     \
        /      <  {:::::::::::::::::゙゙'ニr     .ヽ  {:::::::::::::::::}  >      \
       /       \_,,.. -‐''"゛        \ ヽ;;;;;;;;;//       \
      /              ゙゙゙゙゙̄"''''―- ..,,,_     \              ヽ
      |              /        `゙'' 'ー ..,、 .\             |
      |              {        / ヽ   `'-、 .\           |
      |              ヽ___/ __ \_ .,,....>  \            |
                                 `゙'''ー _. \
                                      `\ \
                                         \\
                                           \


            周辺の雪が見る間に真っ赤に染まっていく。


.

36 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:23:30 ID:XDxaaqIE0


  オプーナと呼ばれた侍は必死に背後の息子に呼び掛ける。




       .ノ-‐'、_\─○
       /_;:;:;ノ、●>|
      | ( _人_) /・,‘    鶴ノ助……逃げろ……
    ∴.'∴.'⌒´/
      / ヽノ ヽ
     /    /\ 〉
   / /| /
  l、_/ / )



                   ___
                  /ノ  `ヽ\
    父上っ!       / ○ }liil{ ○   \
                |⊃ (_,、_,) ⊂⊃ |
                >   |!i|!|     ィ’
             .      |ェェ|


.

37 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:24:13 ID:XDxaaqIE0


               弾かれたように、少年が父親の体にとりすがる。


        ____
       / ノ  ヽ_\
     / u ● 三 ● \
     | ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|   父上っ、父上っ!!
     ヽ      |r┬|  ィ’
           `ー'´


            /.:.:.:. :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:\
            ; /: .:.:.:./ ..:.:.:.:.:./:.:.:.:.: .i:. :.:.:.:.:.:.:.:.ヽ
           ':.: .:.:./ .:./.:.:/:.:.: .:.l .:.l:.: .:',:.:.:.:.:.:.:.l ;
        ; ,'.:.| :.:.l. :.:.//:/:.:.,':.: .:|:.:.:!:.:. .|:..:.:.:.:.:.:|
            /:.: l:.:.:.|:.:.//:/:.:./.:.:. //∧'.:. !:.:.:.:.:.|:.l ;   そ、そこを退けっ
      ;  /イ.: .|:.:.:.l://l//:./.:.:.:./// _ヽ:l:.:.|:.:.:|'.!
          / /:.:.:.r':.:.|ド㍉、'/}.:.:.///_,∠zミ.|:.:l.:.!:{ ヽ ;    と、とどめを刺せないじゃないかっ!
         /´|:.,:.ヽハゞfェ'イト.|:.//廾ゝュ'イフ:./ }:.lヽ、
           |:.{ヽヽ:ヽ  ̄i!´リ ,'    ̄ //イ:.l'.!
           ヽ! ヽ:.l:ヽ.    i!    /':.:.ハ:.| ヽ
                l:.|:.:.\  !ニニ! /l:.:.| ',{
              リ.ソ}Fr>、`=´イ/ヲ.:.{  `
               ノl`=r ≧≦ヲ/f |`ヽ         _ -‐ ' ̄}
               / 艸 | |: : : : | | 圸`ー---‐´ ̄ ̄ ̄: : : : : : : /: : ̄¨}_


                     かすれた声で青年が言う。


.

38 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:24:51 ID:XDxaaqIE0


          少年はガクガクふるえながら両の腕を広げ、

          自らの体を盾に刺客から父を守ろうとする。


                      γニヽ
               ,.r…、-_‐_ 、入_ノ
                (_ _,.ィ(   `ヽx_
           ,..┬-, L_: : : `l 、_  ) ヽ
          /_(。ノ゚~   ヽ、ノ     .i     鶴ノ助……鶴ノ助……
        ∠´ x ゙!      .ヘ      .l
   ,r= 、  .{llキ ,.rll|ヽ      .ト<ヽ   ノ
  .{   ヘil||||;||i|||llll|____    `ヽ-.'
   ヽ   }||||ll||; /\ u./\ ;  ,ィ 、
    ガク ….  / ●   ●  \ .ガクガク.
      /⌒ヽ|⊃ (_,、_,) ⊂⊃ |/⌒i`¨ヽ
      \  ヘ         /  /¨ ''.’
          | ´   ̄  ヽ  |


.

39 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:25:37 ID:XDxaaqIE0


             おそらくその手で人を斬ったのは初めてだったのだろう。


    |::.::.::|::.::.::.::.::.::/::.::./::.::.::.::.::/::.::.::.::.::.::.:|::.::.::.::.ヽ::.::.:|::.::|::.::ト、
    |::.::.::|::.::./::.: /::.::./::.:/::.::.:/::.::.::.::.::.::.::.:|::.::.::.::.::.::i::.::|::.::|::.::|八
    /!::. : |::.::i::.: /::.:::/::.:/::.::.:/::.::.::.::.::.::.::.:/::.::.::.ヽ: : |::. |::.::|::.:ム .\
.   /イ::.::.:|::.::|::.:i::.:::/::.:/::.::.:/::.::.::.::.::.::.::.:/∧::.::.::.::i::.:|::. |::.::|::.i八
  //!::.::.ハ : |::.:|::.::i:: /::/::/i::.::.::.::.::./://  ヽ::.:::.|:: |::.::!::.::!:リ   わ、我が父シャルルを斬殺して逃げた
. /   从::::::.Ⅵ:: |:::.::./::/!:/ .!::.::.::.::/:/ /  / ヾ:::Ⅳ:::/::.://,!
   /:人::.::.::∨ :!::.::iィ㍉ X_」::.::.::://ィ´,ィ≦ニ,スォⅣ::/::.://:/    許せぬ仇はオプーナ独り。
.  /   ∧::.::.:∨Ⅳム戈:歹≧!::.//〈く壬ィ≦戈:歹イ::/::.:/〉!/
.    / ヽ::.:: ∨{/´ ̄ ̄彡ィ/ィ⌒ミ=-ミ  ̄ ̄ /:/:.:://:/     こ、子どもまで斬るつもりはないんだっ。
    {   ヽ::.:Ⅵ\    / .::|      -=彡イ::/::.{
         )八ト.、ヽ      ::|       イ::.::.:/!::.|
       // |::.::.:::\     _`,_     /::.:::i:::{爪:|
.          |:::イ::.::.::}ト、 / , --.、 ヽ /!ハ:::::::|: |八j!
.          |/ !::.:イ !  ヽ     .,イ  //∧: |八
          / . レ' /\\  >-<  /イ/ .∧\
.          / /  .\>== ==</   ∧ \
.         /  !{    /  /  |  ヽ     〉  \


                 声はかすれ、構えた太刀は震えている。


.

40 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:26:23 ID:XDxaaqIE0


                                                  ///
                                                ,r'、//
   し、しかし、邪魔をするつもりというなら……             ,、/`ヽ /;\ >'
                                         r〈 ヽrゝニ`ー <}!
                は、話は…べ、別だっ!          {ヽ \ノ´ーr   }
                                         >、)ー';;;//   |
              _. -‐:: ̄::¨::‐-.. _               Yヽ  /;;;;;;;;;, <_ r''´ ̄`ヽ
            _':.´:.:.::.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:``ヽ、          .ノ  ヽ<;;;;;;;;;/   {!:::::::::::::::::\
           /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.::.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:\       ,イ i! リ  ヾ,イ     ';:::::::::::::::::::::::',
          /:.:./:.:.:./:.:.:.:.:.:i .:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.`ヽ   /  |!/    ノ       ',:::::::::::::::::::::::',
         .,,':.:./.:.:.: /.:.:.:.:.:.,ィ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:}ヽ /´ ̄`ヽ__/         ',:::::::::::::::::::::::',
       ,/l:.:/.:.:.:/i/ヾ.:.:/:i::ヘ::.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. i/:::::::::::::/::::::::::: ̄`ー- ..,,_  ',::::::::::::::::::::::',
         .|/´|:./:/:i.:|:.:/::::\`ー- ..,,_\, 、.:.:.:.:./´:::::_,,..r''´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`ヽ j:::::::::::::::::::::::::',
         //:.:|'|/.:.:|:.|//\::::\:::|/::/<  }:::,r_,,..r''´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ノ|`ヾ:::::::::::::::::::}!
        .//.|':.:/.:|//  ノ,イ tリ.,,_:/i/ _ノ //::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::j!
       ./´   i!/:.:.//ヽ ´   ̄´ /,イ /´ ̄::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`ヾ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ノ
           ///ヽ:./__  _  //´::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::∨::::::::::::::::::_,,..-‐'´
            /   /::::::`ヽー `ノ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::∨_,,..-‐''´
              /:::_,,..-‐''"´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::}!
             //::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::_,,.. -‐'´i!


                       青年が太刀を構えなおす。


.

41 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:27:02 ID:XDxaaqIE0


  それでも、鶴之助は退くことはもちろん、震える両腕を下ろそうともしない。


               ____
             ; /\ u./\ ;
    ガク ….  / ●   ●  \ .ガクガク.
       /⌒ヽ|⊃ (_,、_,) ⊂⊃ |/⌒i
       \  ヘ         /  /


                   /.:.:.:. :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:\
                   /: .:.:.:./ ..:.:.:.:.:./:.:.:.:.: .i:. :.:.:.:.:.:.:.:.ヽ
                  ':.: .:.:./ .:./.:.:/:.:.: .:.l .:.l:.: .:',:.:.:.:.:.:.:.l
                  ,'.:.| :.:.l. :.:.//:/:.:.,':.: .:|:.:.:!:.:. .|:..:.:.:.:.:.:|
                 /:.: l:.:.:.|:.:.//:/:.:./.:.:. //∧'.:. !:.:.:.:.:.|:.l
 退けと言っているのが  /イ.: .|:.:.:.l://l//:./.:.:.:./// _ヽ:l:.:.|:.:.:|'.!
                / /:.:.:.r':.:.|ド㍉、'/}.:.:.///_,∠zミ.|:.:l.:.!:{ ヽ
  わからないのかっ!  /´|:.,:.ヽハゞfェ'イト.|:.//廾ゝュ'イフ:./ }:.lヽ、
                  |:.{ヽヽ:ヽ  ̄i!´リ ,'    ̄ //イ:.l'.!
                  ヽ! ヽ:.l:ヽ.    i!    /':.:.ハ:.| ヽ
                     l:.|:.:.\  !ニニ! /l:.:.| ',{
                     リ.ソ}Fr>、`=´イ/ヲ.:.{  `
                      ノl`=r ≧≦ヲ/f |`ヽ


     /\___/ヽ
   / -‐'  'ー-  \
  . | (●),(、_,)、(●) ::|
  |    /,.ー-‐、i  :::::|
  |    //⌒ヽヽ  .::|    (こ、こら…あかんっ)
  |    ヽー-‐ノ  :::::|
   \    ̄   ...::/
   /`ー‐--‐‐―´\


.

42 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:28:51 ID:XDxaaqIE0


             ダディは思わず声を上げた。


                           /\___/ヽ
                          / ''''''    '''''' \
                         │:::::::(ー),  、(ー) l
                         │/')   ,,ノ(、_, )ヽ、,,, │
  そこらで堪忍したっておくんなはれ    /‐:::  `-=ニ=- ' /
                        _,,,l ;! |:::______/
                     , -‐'゙゛ i::..  | .ヽ/;ヽj! `‐-、_  +
                     l     ノ::. .:|、 .ヽ,:ヽ|   <゛~ヽ、
                    ,:''`` ''"゙.|;;:‐''゙|.ヽ、 ヽ;::|   /  .|゙l
                    ,:     ヽ::il;;!  ヽ、ヽ|  /   | :|



    l:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:.:./:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:/l:/:.:.:.:./.:/l.:l.:.:.:l.:.:.:.:l.:.:.:.l:.:.:.l
    j:.:.:.:.:.:.:.:.:.:l.:.:.:/:.:.:.//.:/l.:.:/ .メ //:.:.:/:./ |:l.:.:.:|.:.:.:.:|.:.:.:.|.:.:.:l
    ノ.:.:.:.:.:.:.:.: .l.:./.:.:../ ./ノ /.:/.///.//.:.:/.:./   ヽ.:.:l.:.:.:.:.|.:.:.:.|.:.:.:l
    イ.:.:.:.:.:.:.:.:.:l/.:.:.:./ーメ,,_//__ノ.:.://.:./.:.//,,-‐'''ヽ:l:.:.:.:.:l:.:.:.:l:.:.:.l
    l.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|/.:/y=‐‐-/、  // l:.l.:./ l.:l  ,r‐''"ヽ`ヽ/:.::.:/リ.:`j  だ、誰だっ?
    .l.:.:.:.:.:.:.:.:.:l l/{   ,.-c、ヽ l/ l//   lノ/ r‐c、 .リ /.:.:.:/./ l/ヽ
     l.:.:.:.:.:..:.:.:ヾヘ`、 ゝ゚-' , ./  / .i ´イ 、 ゝ゚-'ノ ノ./.:.:/ l
     lヽヽ.:.\ヽヽ  ` ̄´     ノ . li    ` ̄´  ///.:./ /


.

43 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:29:25 ID:XDxaaqIE0


      二人の間に割って入る形で積雪に両膝をつき、深々と頭を下げた。


             /\___/ヽ
           /:::::::       \
      .     |:::.   ''''''   ''''''  |   大坂は天満の寒天問屋、井川屋の主で
      .     |::::.,(一),   、(一)|
      .     |:::::: ノ ,,ノ(、_, )ヽ、,, |   ダディクールと申すもんでおます。
           \:::::.ヽ`-=ニ=- ' /
           /   `一`ニニ´-,ー´     見るに見かねての差し出口でおました。
          /  | |   / |
          /   | |  / | |       何とぞご勘弁のほどを。
         /   l | /  | |
      __/    | ⊥_ーー | ⊥_ __
         |  `ーヽl_l_l.} ヽl_l_l.}
        (、`ーー、ィ   } ̄`   ノ
         `ー、、___/`"''-‐"


.

44 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:30:15 ID:XDxaaqIE0


 年寄りの柔らかな浪花言葉と、その平伏した姿が青年の刺々しい怒りを和らげたらしい。

                青年は太刀を降ろしてダディに問いかける。


        /.:.:.:. :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:\
       /: .:.:.:./ ..:.:.:.:.:./:.:.:.:.: .i:. :.:.:.:.:.:.:.:.ヽ
       ':.: .:.:./ .:./.:.:/:.:.: .:.l .:.l:.: .:',:.:.:.:.:.:.:.l
      ,'.:.| :.:.l. :.:.//:/:.:.,':.: .:|:.:.:!:.:. .|:..:.:.:.:.:.:|
      /:.: l:.:.:.|:.:.//:/:.:./.:.:. //∧'.:. !:.:.:.:.:.|:.l   お前、商人かっ。
     /イ.: .|:.:.:.l://l//:./.:.:.:./// _ヽ:l:.:.|:.:.:|'.!
    / /:.:.:.r':.:.|ド㍉、'/}.:.:.///_,∠zミ.|:.:l.:.!:{ ヽ   だったらこんなことに首を突っ込まずに
     /´|:.,:.ヽハゞfェ'イト.|:.//廾ゝュ'イフ:./ }:.lヽ、
      |:.{ヽヽ:ヽ  ̄i!´リ ,'    ̄ //イ:.l'.!     商売に専念してたらいいじゃないかっ!
      ヽ! ヽ:.l:ヽ.    i!    /':.:.ハ:.| ヽ
         l:.|:.:.\  !ニニ! /l:.:.| ',{
         リ.ソ}Fr>、`=´イ/ヲ.:.{  `
           ノl`=r ≧≦ヲ/f |`ヽ


          /\___/ヽ
         /       :::::::\
         |             .::::|  へえ、ほんにありがとうさんでございます。
        |  /      \ .;:::||
        |  ー,   ー  ::::||  ほな、早速に商談に入らせて頂きとうおます。
         \ ,,ノ(、_, )ヽ、,,.::::/
         /``ーニ=-'"一´\


.

45 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:31:06 ID:XDxaaqIE0


     l:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:.:./:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:/l:/:.:.:.:./.:/l.:l.:.:.:l.:.:.:.:l.:.:.:.l:.:.:.l
.    j:.:.:.:.:.:.:.:.:.:l.:.:.:/:.:.:.//.:/l.:.:/ .メ //:.:.:/:./ |:l.:.:.:|.:.:.:.:|.:.:.:.|.:.:.:l
    ノ.:.:.:.:.:.:.:.: .l.:./.:.:../ ./ノ /.:/.///.//.:.:/.:./   ヽ.:.:l.:.:.:.:.|.:.:.:.|.:.:.:l
    イ.:.:.:.:.:.:.:.:.:l/.:.:.:./ーメ,,_//__ノ.:.://.:./.:.//,,-‐'''ヽ:l:.:.:.:.:l:.:.:.:l:.:.:.l
    l.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|/.:/y=‐‐-/、  // l:.l.:./ l.:l  ,r‐''"ヽ`ヽ/:.::.:/リ.:`j
    .l.:.:.:.:.:.:.:.:.:l l/{   ,.-c、ヽ l/ l//   lノ/ r‐c、 .リ /.:.:.:/./ l/ヽ    なに、商談?
     l.:.:.:.:.:..:.:.:ヾヘ`、 ゝ゚-' , ./  / .i ´イ 、 ゝ゚-'ノ ノ./.:.:/ l
.      lヽヽ.:.\ヽヽ  ` ̄´     ノ . li    ` ̄´  ///.:./ /
       ヘ.:.:ヘ.:ヘヽ\          |i        /.:/.::./



                                 ,ヘ           ,:ヘ.
                               /: : \       /::  !
                             /::::.....  \--―‐'.:.:::...  !
                             /::::::                 ',
                             ,'::::                    i
                            .i::::      '''''''        '''''''   !
                            !:::.      (● ),    、(● )、 !  +
                           |::::..         . ,,ノ(、_, )ヽ、,,    l
         へえ、商談でおます。      i;::::..         ノ     、 ゝ   !
                            ':;::::...       ー‐ ==イ    /.  +
                             .\:::::.....       ヽ--‐'   /     +
                              `ゝ:::::........      ....../
                               ,レ─── 、    /


             ダディはまっすぐに若侍の目を見る。

          齢六十の老年ながらその眼力は衰えがない。


.

46 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:32:13 ID:XDxaaqIE0


     ダディは懐に手を入れ、厳重に巻いた銭袋を取りだした。


       /\___/ヽ
      /:::::::       \
     |:::.   ''''''   ''''''  |
     |::::.,(●),   、(●)|
     |::::::: ノ ,,ノ(、_, )ヽ、,, |
       \:::::.ヽ`-=ニ=- ' /
     /   `一`ニニ´-,ー´               __
     /  | |    / |               /'´r==v)
    /   | |  / | |               ll ||  8
    /   l | /  | |           ~~~7/  ハ
__/    | ⊥_ーー | ⊥_ _______>=゛="<'__~~`
   |  `ーヽl_l_l.} ヽl_l_l.}         ./ 田 田.ヘ
  (、`ーー、ィ   } ̄`   ノ        /田 田 田'.、
    `ー、、___/`"''-‐"        .〈ー-------一〉
                       `ー-----一.'


      迷いもなく、銭袋を若侍に差し出す。


.

47 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:32:52 ID:XDxaaqIE0


          訝しげに中をのぞいた青年は、はっと息を飲んだ。


                         .        /.壱//万:/|
                                  |≡≡|__|≡≡|彡|____
                         .. / ̄//|≡≡|__|≡≡|/.壱//万:/|
                          |≡≡|__|≡|≡≡|__|≡≡|≡≡|__|≡≡|彡|
                          |≡≡|__|≡|≡≡|__|≡≡|≡≡|__|≡≡|彡|
                          |≡≡|__|≡|≡≡|__|≡≡|≡≡|__|≡≡|彡|
                          |≡≡|__|≡|≡≡|__|≡≡|≡≡|__|≡≡|/
                                (映像はイメージです)




  /::;;;;;;;,´::::: :::::::: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: :: : :::: ::: :: ::|
  /::/:: ::::::::| :::: :::::::::;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;:::: : :: :: :|
//|:/;;:: :: ;;|:: :: :::::: :::|;; ;; ;;  ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;:: :: :::::::|
/ハソ;;;;;:::::;;.|:: :: :: :: :::|;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;;.::: ::|:: ::.|
  i/ハ::;;;, 、.|:: :: :: :: ::|;;;;;;;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;:::: :|:: :::|
   ノ;;;;/ V |::::i::::::::|;;;;;;;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ハ;; ;; ;;:::;;;|i:::|::|    こ、これはっ
  /::::;:ヽ i::|::::|:: ;;;:|;;;;;;;; ;; ;; ;; ;; _,/;; ;/;; ;; ;; ;;/;; ;; ;; ;; ;/;; ./ |;; ;; ;; ;;||;;:|ヾ、
  ノ/;;;;;;;i. .|::|::::|::::;;;ヾ;;;;;.;;_x -''´////;; ;; //;;/;; ;; ;/;; ;/''´ |;; ;; ;; ;;|ヾ|ハゝ
  ´/::;;;;ハ::;;ヽヽi::;;;:::;;;;;`、/_><<_//;;;;;/ /;;://;;;;;;//;/ ィt /;;;;;;;;;;;;;;| レ´
  /;;;;;/ /;::;;;;;;;li;;i;;;i:::;;;;;;;;|;;|弋及-、|`//;;;/=、/;;//;;;;;///,xィ勿ト /;;;;;;;;;;i;;;;|
/|;;;/  |;;i;;;;;;;;|ヽ`ヾ;;;;;;;;|、;i廴::...::ン`''x、 /;//;;;;;//ィ冬z刻/;;;;;;;;;;ハ;; /
  |/   |;;|i;;;;;i、 ヽ`、ヾ;;;;ヽ`、` ̄ ´ /    / |;;/       /;;;;;;;;;/ |;;;|


   そこには彼が一生かかっても拝めないほどの銀貨が大小取り混ぜて入っていた。


.

48 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:33:32 ID:XDxaaqIE0


                 とまどった顔でダディを見る。


                                   _,. -- 、_
                              _ -‐: : : : : : : : : :`丶、
                            , . : .:.:.: : : : : : : : : : : : : : : : :ヽ、
                         , : : .:.:.: .:. : : : .: : : : : : : : : : : : : : : :\
                        /: .:./:./:.:.///: / : : : : : : : : : : :ハ
                       /:.:./:./:.:./:.:.///: ://: :.: : : : : : : :. : :. い
                     /フ://:.:.':.:./:.;.:.:.;.:/: .:.:.//: : :.: :. : : : : :.: :.:.:. i: '、
                    ´/:.//:.://:/:./:.:/:, : .:.:/ィ:| |:.:.:.:.:i: : : .:.:. :i:.:.: ト、ト\
   こ、これは一体……     l/〃:.:.l:.l:/:./:〃/: :.ィ:/ l/!:|l:.:.:.:.|: : :.:./:/:.:.:. | 丶
                    { |l|:.l:.l:.l|:メl:///:.:/ナ=┼l小:.:.://: .:/:/:.:.:.:.!:!
                      lハ:.!:.!:|i小以!:./ノ‐ラ云=ミヘ//: .:/:/:.:.:.:.!:い
                      { ぃl:.い.:.l`Ⅳ  ノ匕zj_ ン//:.:.ィ ィ:.:.:.:.:.:|:.l、ヽ
                         ゝヘトV         //// //:{:.:.:.:、ヽミ 、
                         rf: : : : ヽ' _    ‐彡' / /イl:小:.、:.ヾ\:\
                        l:{: : : : : ノヘ` =‐- .イ  /|'! j八{:¬i : : : : \
                        ハ: : : : : ノィへ.. ィ入二二 く r=ノ气_): /: : : : : : : \


              /\___/ヽ
             /''''''   '''''':::::::\
            . |(●),   、(●)、.:| +
            |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
          .   |   `-=ニ=- ' .:::::::| +
             \  `ニニ´  .:::::/     全部で銀二貫、おます
              `ー‐--‐‐一''´
             /:: ::\  //::::: \
             /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\
            /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i


.

49 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:34:26 ID:XDxaaqIE0


          ダディは温和な口調で続けた。


       /\___/ヽ
      /:::::::       \
     |:::.   ''''''   ''''''  |
     |::::.,(一),   、(一)|    お侍さんの仇討、
     |::::::: ノ ,,ノ(、_, )ヽ、,, |
       \:::::.ヽ`-=ニ=- ' /    わたいにこの銀二貫で
     /   `一`ニニ´-,ー´
     /  | |    / |        買わせて頂きとうおます。
    /   | |  / | |
    /   l | /  | |
__/    | ⊥_ーー | ⊥_ ________
   |  `ーヽl_l_l.} ヽl_l_l.}
  (、`ーー、ィ   } ̄`   ノ
    `ー、、___/`"''-‐"


.

50 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:35:21 ID:XDxaaqIE0


     . /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.\
      /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.'.
      ,'.:.:.:.:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:!.:.:.:.:!..:.:.:.:.:l
     } .:.:.:.l.:.:.:.:.:.:.:.:.:/.:. :.//.:./.:.:.:.:./i :.:.:. |:.:.:.:.l:.:.:.l:.|.|
     .':.l.:.:.:.| :.:.l:.:.:.:./:. :. :./:./:.:/ : :.: .:./.:.|:. .:. .|:.:.:.:.l:.:.:|:.l.:!
   . /:./'..:.:.| :.:.|.:.:./l:.: .:/:./:./ .: .:.: :.:./.:.:.:l:.'、: .l.:.:.:.:|.:.:.|:.|:l     な、なにを馬鹿な!
   /:./ l.:.:.| :.:.l.:./ l.: .:./:./:./:.: .:.:.: /:.:./l:.l:.:.\.|:.:.:.:l.:.:.l:.|:.l
   }/  l'..:.l :.:.|/ヽ|: ./|:/:./.: .:. :.:/.':./ |:.!ヽ:.:.} .:.:/:.:/|:|'.:{     仇討を金で買うだなんて、
   /   |ヽヽ :.', ミ|:/‐|{:./l:.:.:.:/ /:.∠-‐´ヽ_',ノ .:/ }.{.',{ ヽ
      l .:.ハ:ヽ:.{f㍉,爻イ、|:/ //,rz=伐升フ .:/ /:.:l ヽ      このルルーシュを馬鹿にするなっ!
      | ノ ',ヽヽ',¨冖┴-/´',  彡`ゝー┴‐7 ../ /:.:,'
      |/ ヽ:.\ヽ、     }        /:.:./_/ |/
      ノ´  ヽ:.:.ヽ ̄    i}        /:.ノ:.:.l /
          l:.|:.:. ヽ、  -‐- -、..  ,イ、/.:./リ


                          /\___/ヽ
                         / ''''''    '''''' \
                        │:::::::(ー),  、(ー) l
 (怒りながらも銭は手放さへん…)   │/')   ,,ノ(、_, )ヽ、,,, │ +
                         /‐:::  `-=ニ=- ' /
  (こら、勝ったな……)        _,,,l ;! |:::______/     +
                    , -‐'゙゛ i::..  | .ヽ/;ヽj! `‐-、_  +
                    l     ノ::. .:|、 .ヽ,:ヽ|   <゛~ヽ、
                   ,:''`` ''"゙.|;;:‐''゙|.ヽ、 ヽ;::|   /  .|゙l
                   ,:     ヽ::il;;!  ヽ、ヽ|  /   | :|


              ダディは自らの勝利を確信した。


.

51 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:35:50 ID:XDxaaqIE0


       /\___/ヽ
      /:::::::       \
     |:::.   ''''''   ''''''  |
     |::::.,(一),   、(一)|
     |::::::: ノ ,,ノ(、_, )ヽ、,, |   ほんの少しの間でよろしおます、
       \:::::.ヽ`-=ニ=- ' /
     /   `一`ニニ´-,ー´      この老い耄れの話を聞いとくなはれ。
     /  | |    / |
    /   | |  / | |
    /   l | /  | |
__/    | ⊥_ーー | ⊥_ ________
   |  `ーヽl_l_l.} ヽl_l_l.}
  (、`ーー、ィ   } ̄`   ノ
    `ー、、___/`"''-‐"


.

52 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:36:37 ID:XDxaaqIE0


   『その銭はこの間の大火で焼けてしもうた

    天満宮の再建に用立てて頂く心づもりで、

    .        /.壱//万:/|
             |≡≡|__|≡≡|彡|____
    .. / ̄//|≡≡|__|≡≡|/.壱//万:/|
     |≡≡|__|≡|≡≡|__|≡≡|≡≡|__|≡≡|彡|
     |≡≡|__|≡|≡≡|__|≡≡|≡≡|__|≡≡|彡|
     |≡≡|__|≡|≡≡|__|≡≡|≡≡|__|≡≡|彡|
     |≡≡|__|≡|≡≡|__|≡≡|≡≡|__|≡≡|/
        (映像はイメージです)

   これまで貸し付けてあった先に頭を下げて

   今日、ようやっと回収したもんでおます』


.

53 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:37:10 ID:XDxaaqIE0


                                    __
                                    /|: : :.:::|
                                l   | : : : :|
                                 |   |: : :. .:|
                                 |   |: : : :.:|
  iv'ヘ                                |  |:|l==|
  | ;`;|                            |  |:|》: ::::|        i'1
  | ;'l:|           i'`'i             、       /|  |:|\ : |  .      |;'|       ,、
  !:`l'|  ζ\     |;`;|             ∥       〕 .|  |:|  || | ./\   _.|;'|       /.:〉
-、_|_.;l:|   \';、\  :|':i;;|     .  i'1   ||/>  r┘.:|  |:|  ||::| |  ∥‐┘ .:|';|──へ./.:/_r‐
ー|_}:;|    \';、.\|;';;;|   ./〉 |;|_r//  /| ̄\:|  |:|   ̄ .:〃../>.::|;'|:::::::::::::::/.:/:::::::::::
-|_|`|_r:‐:‐:‐:‐\';、\;| r‐//┐_|:|::::::::;⊥、r/.::| .:::::::|/\/\   《// ..:::|;'|:::::[]::::/.:/]:::::::[]::
ー|_};|::::::::::: : :: : {二l\;i`!、::://:::::::::::::::::::r| .::| /.:::::<\/   〈:::.:... \ 》 ' .::::::::/|\_n::::::::::::::::::::
-|_| ̄/\:::::::/`|_{┬| |;、\::::::::i'|::::::r┴冂、 .:::::|::\\ _____:::::.:..〉″へ:::::/ .| |: : : |:|::::::::l`!へ、
ー|_}::/ 、';';〉.:/ /{_|┴lニニニニニl.r┴、_|_|_|:>:::::___|」__:l;_;_//..::. `〈 :| |: : : |:|::::::::| |: : :
-|_;l'_;_;_∠;/_/___l_,,:;;}┬┴┬┴┬┴┐::| .:::|_rェ┘__;!___;!__;|_;_;:::.:/ : :| |: : : |:|::::::::| | : :
~゛'' ┘⊥ 」_ |  |{_|┴┬┴┬┴┬┴┤ .:|_;!__;!__:l__;!__;|<___;_/\_;_;_;|;|-∠|_|;_;_;
         ~゛'''' ┴'::⊥Λ二\.:|  .:|ー:|__;!__;!__;!__:l__;l:::...\/<>::.  ∠二
 `     , '  .   `   ∨_,,,;;;;/. ~゛`┴ -'⊥ .」_;!__;!__;!__;!_;ト、 r─‐-、   ...:.:.:.::.:
             ,                 ~゛ ┴  ⊥. .,_..:::| ::/ ̄. ̄'"ヽ┴-、_;_;_;_;_;_;_
                     ,,       `            ~゛'' ‐-|\___ト--/.. ...:::::::./|
  `             .,     `    ,.            '     \|__;_;_;_;_;!─l二二二l/

         「天満の天神さん」が身をもって助けてくれはった、

          そう信じたダディは同じく類焼を免れた他の商店主とともに

          天満宮再建のために出来うる限りの寄進をしようと決めた。


.

54 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:37:43 ID:XDxaaqIE0



        だが、世は不況の真っただ中。


      _::.;;;|_;:.._|__:._|____|_.| i ..|
      ;::_|___|√__:.:|:..__|__,;;'~   |   〉
      __|:::.__|__;:._|__;::|'___ i  '~ヽ/ ̄`::.
      ::._|__|_|;:;:::|_|__:|___,;'    |   ::.
      __|_::._.,|__::..|∧,,,,,∧〃   ,,/  :..
      _|__|;;;;;;;;;;;;;;;;|__彡o-o・,,ミ〃 i | :. ..
      ;._::.,|___|__と「;;<w[と).|i  .|    :..
       ̄ ̄|_|___|__/;;y;;;;;;ゞ\   |  ::...:
      ted!..|;;.__;;;|_::._|〆ノ `J\r' ̄|    ::.:
      o`》:::|_|;;;::::._:|__|\ \| ̄㌧  | :.
      ル。:::|_:.__::|__|\ \| ̄ ㌧ : :. |   :..
      __|_|__|\ \| ̄   .::    .. |     ::..
      _|__:;;;|\ \| ̄    ..: :.. .::. :. .|  :.
      ;;;,,,,_;|\ \| ̄'' 目 λλ     ;;. |  :.   ::.
      '    \| ̄  ;;./ ヽ_( 'ー`)y-~ : .  |   ∧∧
      ∩∩    ̄ ̄'''' |~|ノ( ヘヘ) ̄ ̄ ̄''\,~-∩゙*,)
      ;;;'д),, ;;     |__,,|   。  ゛   ,,\(_ソと)
        っっミ    ::.                ( , ノ ::.
      ;;,_)旦         l⌒i⌒l       .レ`J.、
      ,,,,,,,,,,,ミ     @

          ダディにしても、寄進できるのは

   大恩ある美濃志摩屋に大変な苦労を強いてまで調達した

           この銀二貫がやっとだった。


.

55 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:38:20 ID:XDxaaqIE0


              . -‐.:.: ̄ ̄ ̄>x.
             /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:\
            /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:\
           /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ
          /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./ .:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:l
         /.ィ.:.:.:| .:.:.:/:.:.〃.:.:/.:./..:.::.ィ.:.:.:.:!.:.:!     よくわからないな。
        ノ'´ l.:.:.:.| .:.:/.:∠|..:.:'.:./ .:::/ !.:! ..:|.:.:|
           |, .:.:| .:.l/rfュ心|::/.:/r―┤l ..::ト..:|     そこまでして手に入れたこの銀二貫を
          ノ|l.:∧ .:l上レt癶:{:/ ィfj升V.:.:∧ ヽ
           |l.:.`ヽ.:.',      { `¨¨7.:.:./       全部寄進するというのか。
           |イ/.:.::ド 、    ′  , ′:/
           从/ト'、 >   ´  イ:.:/
           /   ヽ辷 ≧-<リハ{
      , -―――‐〈`Y ヘ //   /// {__ __
  /        ナ K //   // {ト、    `丶


               /\___/ヽ
             / ''''''    '''''' \
            │:::::::(ー),  、(ー) l
            │/')   ,,ノ(、_, )ヽ、,,, │ +   へえ、その通りでおます。
             /‐:::  `-=ニ=- ' /
            _,,,l ;! |:::______/     +
        , -‐'゙゛ i::..  | .ヽ/;ヽj! `‐-、_  +
        l     ノ::. .:|、 .ヽ,:ヽ|   <゛~ヽ、


.

56 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:38:52 ID:XDxaaqIE0


      『天満の天神さんは私ら商人の気持ちの拠り所でおます』


        Π                                Π
        旦三l二二l二二l二二l¨/^\¨l二二l二二l二二l三旦
        /               //'^\\               ∧
       /             //`¨O¨´\\             ∧
      /            // 〔王l王l王〕 \\           ∧
      /          </=======\>.          ∧
     /    ,′                              `,   ∧
    /    /             γ´三三三ヽ           \   ∧
    /    乂ゞ 、        /゙/  ◎   ヾヽ         , 彡丿  ∧
   ≪亞亞亞`<三三三三三彡` ‐-((t))-‐ ´乂三三三三三彡´亞亞亞≫
        | |        | |l〈〉ll=(Y)=ll〈〉l| |        | |
        | |        | |l〈〉ll=(Y)=ll〈〉l| |        | |
        | |        | |l〈〉ll=(Y)=ll〈〉l| |        | |
        | |        | |l=ll=(Y)=ll=l| |        | |
        | |        | |l=ll=GQ=ll=l| |        | |
        | |        | |l=ll=.从.=ll=l| |        | |
    o     | |        | |l=ll=ll=ll=l| |        | |    o
    ||=ll=ll=ll=ll=ll=ll=l┌―――‐┐f=ll=ll=ll=ll=ll=ll=||
    ||_||_||_||_||_||_||_||l_.奉納_.!.l|_||_||_||_||_||_||_||
   [二二二二二二二二二二二|l三三三三l|二二二二二二二二二二二]
     | .|:::::::::::::::::::::::| .|::::::::::::::::::::::|l三三三三l|::::::::::::::::::::::| .|:::::::::::::::::::::::| .|
     凵:::::::::::::::::::::::凵::::::::::::::::::::::|l三三三三l|::::::::::::::::::::::凵:::::::::::::::::::::::凵
                //_ _ _ _ _ _ \\
              //_ _ _ _ _ _ _ _\\
            //_ _ _ _ _ _ _ _ _ \\
           //_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _\\


  『焼けてしもた天神さんを何とかするんは、氏子として当たり前のことだす』


.

57 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:39:49 ID:XDxaaqIE0


             _ - ‐───---、__
          /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:`丶、
         /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.  .:.:.:.:..\
       /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: .:.:.:\:\
      /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: .:.:.:.:.:.:.:.:. :. :.:.:\:.`ニニ=ー
     /.:.:.:./:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.l:.: .:.:.:.:ヽ:.:ヽ ヽ :.:.:.: ..:. :.:.\:.`ー-、_
     /:.:.:./ .:..:.:. /:.:.:.:/:.:.:|、\ :.:.:.:.ヽ :ヽ ヽ :.: .:.:. :.:.:.:.\ ̄
    /.:.:./ .:.:.: /:.:.:.:/ .:.:.:| \:.\. :.:.l :.:| :.|: .:.:.:.:ヽ:.ヽヽ:.:\      だ、だったらなおさらじゃないか。
    /:.:.:.|l .:.:.:. /:.:.:.:/ .:.:./|  \:.\:l :.:|: .|r 、:.:.:.:l|:.:|:.|`ヽ、`ー、_
   ノ/|:.:.||: .:. /:.:.:.:/ :.:./|:.|  ∠弌ヽl .:.|:.:| ノ.:l:.:.|:.:.|:.|    ̄     そんな事情のある金で仇討ちを買うなんて
  /'´ |:.:.|l:. :.:.{:.:.:./ :.:./ .|:.|_//_j },ノ|:.:.|:.:|/|:.:.|:.:.|:.:.|.i|
     l:.:l ヽ:.:.|:.:./ :.:./、 |.l´彡>=´ |:.:l:./l }.:.|:.:.l:.:.l|リ         本末転倒もいいところだ!
     |:,'  ヽ:|、{:.:.:.{,孑ゝヽ、     /イ/// イ/ヽヽ:.`ー-、_
     {l   ヽ{ヽ ヽ¨´|      ´ //  /  ヽヽ ̄
     ヽ、   ヽ.{:.:.|ヽヽi!  _ ,__  ∠    //',
          |{ヽ{  |:.`> 、   /===Fイ´: : :ヘ
            `  }ノ ソ ン ` ‐´Ⅵ: : : : : : :||: : _∧ : :ヽ


                 /\___/ヽ
               / -‐'  'ー-  \
              . | (●),(、_,)、(●) ::|
              |    /,.ー-‐、i  :::::|
              |    //⌒ヽヽ  .::|   それは逆でおます。
              |    ヽー-‐ノ  :::::|
               \    ̄   ...::/
               /`ー‐--‐‐―´\


                      ダディは首を横に振る。


.

58 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:40:30 ID:XDxaaqIE0


       /\___/ヽ
      /:::::::       \
     |:::.   ''''''   ''''''  |   ルルーシュさま、言わはりましたか、
     |::::.,(一),   、(一)|
     |::::::: ノ ,,ノ(、_, )ヽ、,, |   この銀二貫がわたいの懐にある折も折、
       \:::::.ヽ`-=ニ=- ' /
     /   `一`ニニ´-,ー´     ルルーシュさまの仇討ちの場ぁに出くわしてしもたんだす。
     /  | |    / |
    /   | |  / | |
    /   l | /  | |
__/    | ⊥_ーー | ⊥_ ________
   |  `ーヽl_l_l.} ヽl_l_l.}
  (、`ーー、ィ   } ̄`   ノ
    `ー、、___/`"''-‐"


.

59 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:41:03 ID:XDxaaqIE0


       /\___/ヽ
      /:::::::       \
     |:::.   ''''''   ''''''  |   これもきっと天神さんが結ばれはったご縁、
     |::::.,(●),   、(●)|
     |::::::: ノ ,,ノ(、_, )ヽ、,, |   わたいには『その仇討ち、お前が買いなはれ』て
       \:::::.ヽ`-=ニ=- ' /
     /   `一`ニニ´-,ー´     言うてはるように思えてなりまへんのや。
     /  | |    / |
    /   | |  / | |
    /   l | /  | |
__/    | ⊥_ーー | ⊥_ ________
   |  `ーヽl_l_l.} ヽl_l_l.}
  (、`ーー、ィ   } ̄`   ノ
    `ー、、___/`"''-‐"


.

60 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:41:40 ID:XDxaaqIE0


   ルルーシュは今しがた己が斬った男に目をやる。

                      γニヽ
           ヒュー . ,.r…、-_‐_ 、入_ノ
                (_ _,.ィ(   `ヽx_
           ,..┬-, L_: : : `l 、_  ) ヽ ヒュー
          /_(。ノ゚~   ヽ、ノ     .i
        ∠´ x ゙!      .ヘ      .l   ツル……ニゲ……ツル……
   ,r= 、  .{llキ ,.rll|ヽ      .ト<ヽ   ノ
  .{   ヘil||||;||i|||llll|||i,゙i       `ヽ-.'
   ヽ   }||||ll|||'゙   ゙l||i,    _    ,ィ 、
    ゝ _ノ''´  l   }||iゝ、/  ` '' 、!_r' `¨ヽ
          {   /'゙ `´        `¨ ''.’
          ゝ- '

           オプーナは最早虫の息で、

   わざわざ止めを刺すまでもない状態だと見て取れた。


.

61 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:42:08 ID:XDxaaqIE0


   /. : /. : :/. : . / . : : : : . : : : : : : : : : : : : : : !
  i.:::::. /.: : /. : .:: ,.′.: : :/. . : : i: : : : : : : : : i: l
  l:::: /.::: : .::: .:: ./ :/. : :/. : . ://:}: : : :::. i: : : :| :l: |
  l:::::}:::::: ::::..:: / :/. /}. : : //}::ハ: :i: ::. :}: : : | :|: {
  |:::::|::::i::. !:::::/.:イ: / /: : イ:/ l::l  l: ト、::. |: : : | :|: l
  }i::::|::::i:::.{:::イ:/_i:/ /:::./// j::{ .」斗ヘ:::}:/ : }. ト、!
  イ:::ハ::|::::V十rfリミ」:::/// , //ィf≧=ヘ小/. :イ: :ハ:ト、    そこまでしてこの父子を助けたいのかい。
  }/  lハ:::::ヽ、近Zソ|/メV/7/ーヘ北シメ/. :/ }/ }{
 ノ′ |ヽト、:::ヽ    i{   ノ′       /. :/.ィ:!  `     大坂の商人は何でも商売にするって聞いたけど
   . |:::ハ:::ヽト\⌒´  ノ!      /: :イ: .イ:l
     |/ }::|::::\   、____.ノ イ: /i |/ リ        金で命まで買うとはね。
      }!  |ハ::::::i\  `二二´ /イ:!: ハ::{
         }从Li」 ヽ、   ∠_.」」:::{ }:l
          ト--T r‐`´─┐|‐‐イV .リ
          }_ハ_」 |: : : : : : :| L「!」
        __ノf7/,イ |: : : : : : :| ト斗ト、‐-、__


             __/ヽ_∠L_
            /:::::::     ''''\
           .|:::::::::    (●), |
           |::::::::      ,,イ_,`)
         .   |:::::::::      ノ.-=ラ        お言葉ですが、ルルーシュさま。
            \:::::::      `フ
         ,,.....イ.ヽヽ::  、 -─'--、.
         :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
             |  \/゙(__)\,|  i |
             >   ヽ. ハ  |   ||

62 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:42:54 ID:XDxaaqIE0


                                        /\___/ヽ
  わたいが買わして頂くんは、命やおまへん。          / -‐'  'ー-  \
                                     . | (●),(、_,)、(●) ::|
                  仇討ちだけです。         .|    /,.ー-‐、i  ::::|
                               .      |    //⌒ヽヽ  .:|
  また、お父上を殺されたルルーシュさまの恨みの念まで . |    ヽー-‐ノ  :::::|
                                      \    ̄   ...::/
                   銭で消そうとも思てまへん。   /`ー‐--‐‐―´\


         /\___/ヽ
        / ''''''    '''''' \
       │:::::::(ー),  、(ー) l
       │/')   ,,ノ(、_, )ヽ、,,, │ +  ただ、『仇討ち』いうもんを
        /‐:::  `-=ニ=- ' /
      _,,,l ;! |:::______/     + その銀二貫でわたいに譲って頂きたいだけでおます。
   , -‐'゙゛ i::..  | .ヽ/;ヽj! `‐-、_  +
   l     ノ::. .:|、 .ヽ,:ヽ|   <゛~ヽ、
  ,:''`` ''"゙.|;;:‐''゙|.ヽ、 ヽ;::|   /  .|゙l
  ,:     ヽ::il;;!  ヽ、ヽ|  /   | :|


.

63 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:44:17 ID:XDxaaqIE0


                /::;:::::::::::::::::::::::::::::::::/:::::::::/:::::::/:::/:::::::::::/::::/ マム V:::::::|:::!:::::::::::::::::!:::ハ
               .ノィ::::/::::::::::::::::::i:::::::/:::::::::/;:::::://:::/:::::::::::/}:::/  ヽム V:::::|:::!:::::::::::::::::!::::ハ
                 /|::::::::i::::::::::|::::/:::::://}// /:::/:::::::::::/ ,':/    ヽム.V:::!:リ::::::::::::::::|:::::トヽ
                  |::::::::!:::::::::{::/:::/__/.〃  .//!:::::::/./:/    ,,.. -‐. ';::|'::::::::::::::::/::::::| ヾ
  どういうことだい?     |::γ.::::::::::::,ィーtー- ,,`''ー-/.,, !::/ .〃 ,,..-‐''.,,-‐=''ヽヾ!::::::::::::; ィ:ハ:::!
                  |:::{ ';::::::::::ヽ. ト -'万i卞.   `}/ヽ /   ,.ィiチ__ノ心} / ,:::::::::::/ /::{ }::!
                  |:::ハ ':::::::::::{ヽ乂竺!,ソ ゝ    / i   '  乂竺沙. ' ./:::/::::::レ':::/ i::!
                  レ' |ヾ::::::::::::', ` ̄ ̄ ´       :|      `  ̄ ̄´ ./:::/::::::/ |::/ i:!
                     }!ヽ:::::::::::ム               |            /:;:'::::::::/ レ'


    /\___/ヽ
   /''''''   '''''':::::::\
  . |(●),   、(●)、.:| +  へえ、今後、たとえ何処ぞでこのお武家さまとすれ違うことがあっても、
  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
.   |   `-=ニ=- ' .:::::::| +   言うてもこんな状態では万が一にもあらしまへんやろけど、
   \  `ニニ´  .:::::/     +
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、.    仮にそうなっても仇討ちはせん。
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
    |  \/゙(__)\,|  i |
    >   ヽ. ハ  |   ||


              __/ヽ_∠L_
             /:::::::     ''''\
            .|:::::::::    (●), |
            |::::::::      ,,イ_,`)    こちらの坊やに出くわすことがあっても
          .   |:::::::::      ノ.-=ラ
             \:::::::      `フ     仇討ち相手の息子ということは忘れる。
          ,,.....イ.ヽヽ::  、 -─'--、.
          :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i    ただそれだけでおます。
              |  \/゙(__)\,|  i |
              >   ヽ. ハ  |   ||


.

64 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:44:45 ID:XDxaaqIE0


       /\___/ヽ
      /:::::::       \
     |:::.   ''''''   ''''''  |
     |::::.,(一),   、(一)|
     |::::::: ノ ,,ノ(、_, )ヽ、,, |  承知して頂けましたら
       \:::::.ヽ`-=ニ=- ' /
     /   `一`ニニ´-,ー´    あとのことは一切、
     /  | |    / |
    /   | |  / | |      このわたいがあんじょうしますよって。
    /   l | /  | |
__/    | ⊥_ーー | ⊥_ __
   |  `ーヽl_l_l.} ヽl_l_l.}
  (、`ーー、ィ   } ̄`   ノ
    `ー、、___/`"''-‐"


  i/ハ::;;;, 、.|:: :: :: :: ::|;;;;;;;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;:::: :|:: :::|
   ノ;;;;/ V |::::i::::::::|;;;;;;;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ;; ハ;; ;; ;;:::;;;|i:::|::|
  /::::;:ヽ i::|::::|:: ;;;:|;;;;;;;; ;; ;; ;; ;; _,/;; ;/;; ;; ;; ;;/;; ;; ;; ;; ;/;; ./ |;; ;; ;; ;;||;;:|ヾ、
  ノ/;;;;;;;i. .|::|::::|::::;;;ヾ;;;;;.;;_x -''´////;; ;; //;;/;; ;; ;/;; ;/''´ |;; ;; ;; ;;|ヾ|ハゝ
  ´/::;;;;ハ::;;ヽヽi::;;;:::;;;;;`、/_><<_//;;;;;/ /;;://;;;;;;//;/ ィt /;;;;;;;;;;;;;;| レ´
  /;;;;;/ /;::;;;;;;;li;;i;;;i:::;;;;;;;;|;;|弋及-、|`//;;;/=、/;;//;;;;;///,xィ勿ト /;;;;;;;;;;i;;;;|      むっ……
/|;;;/  |;;i;;;;;;;;|ヽ`ヾ;;;;;;;;|、;i廴::...::ン`''x、 /;//;;;;;//ィ冬z刻/;;;;;;;;;;ハ;; /
  |/   |;;|i;;;;;i、 ヽ`、ヾ;;;;ヽ`、` ̄ ´ /    / |;;/       /;;;;;;;;;/ |;;;|
     ヾ ヽ;|\ \ \;;;;ヽ、.         / |    /;;;;;;;;;/、_|/_
       i l\.\  、\;;;;\        ´  i   /;;;;;;;;;/  /  `i


               ダディの言葉を聞いてルルーシュが唸る。


.

65 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:45:40 ID:XDxaaqIE0


                 本来、仇討ちは幕府に届け出て赦し状をもらい、

       たとえ仇を見つけたとしても、其の地の役人に届け、吟味を受けなければならない。


  /       l___l   \         ||i
  |      ●  |    |  ●  |         |||i
  |         ヽ  /     |          ||||i
  \         ヽ/     /           ||||i    ガッ
 /               \            |||||i
/                  |            ||||||i
|   /\ /       _    |            |||||||i
ヽ_/   Y      / /   /       ∧   ||||||||i
        ヽ    /__//  ノ        / 丶  ||||||||||i
        ヽ  .(_______ノ ヽ       /  丶||||||||||i
       /   / /    ノ      ノ    丶||||||ii
      /    / /    /     ノ      ヽ
     /    / /    /    <          >       /\         /"""ヾ
   /   / / /    ノ       \       /::.::.____/:::::::ヽ、        /;:;;:::'''  |
 /   / / / |    |    |||||||||iヽ       /::.   ______.:::::::::::::  __ヽ_    |      |
⊂__/  / /  |   ./  ||||||||||||||||||i\   / ::::::::/ __。\_ヽv // 。\   .|      |
       / /   ヽ_/  ||||||||||||||||||||||i ヽ // ̄ ̄√  ___丶  ̄ ̄\|  |      |
      / /      ||||||||||||||||||||||||||||iヽ  ∨| :::::::::  / / tーーー|ヽ   .::::: ::|   |      |
 / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 三三||||||||||||||||||||||||||||i  ヽ  | .:::::.  ..:  |    |ヽ   ..::::::| /       |
/          三三|||||||||||||||||||||||i     \ .| :::     | |ヽニ⊃| |   ..:::::|ノ      /
ヽ         三三||||||||||||ii \         | :     | | |:::::T:: | !.  ..::::/        /
 ヽ_____三三||||||iii      \       \:       ト--^^^^^┤   /       /


.

66 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:46:48 ID:XDxaaqIE0


               _        _,.. -=、
______,r=}`| i`iー、_r-{ | j }'=、\__
――――――゙|_| .j j j .{=.、 ゝ.ヾ└‐'´  `}!::::::`゙'''ー-――--、
           `ー-、 .   ヽ ゝ-‐'ー-、_ノ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
                  'ゝ-‐':∧:::::::::::::`ヽー- ..,,_:::::::::::::::::::::::::::::::}
                   ,,..〉、:::::::::::ヽ:::::::::::::ハ:::::\i〃/l`ー- :::;;_ノ
                 /::::}!::::::::::::::\::::::::::}!::/∧  l/l::::::::::/
              ./:::::::::::';,:::::::::::::::::::',::::::///ー\/:::_,r'´
              /:::::::::::::::::::';,::::::::::::::::::}:::/::` ̄i!>''"´
             ./::::::::::::::::::::::::';,:::::::::::::::i!/:::::::o/
            /::::::::::::::::::::::::::::::';,:::::::::::ノ::::::/
           ./:::::::::::::::::::::::::::::::::::`ー‐':::o/
          /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::}|:::::/
         ./::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::jjY´
        /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::://


 だが、ルルーシュは若さのあまり正規の手続きを経ずに力任せに斬ったのだ

           ことが露見すれば、彼とて罪人となる。


.

67 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:47:55 ID:XDxaaqIE0


                      f :: :: :: :: :: :: : /:: :: /::// :: :: :: :: :: :: :: i:: :: \
                      i: :: !:: :: :: :: ::/ : :: :: //: :: :: :: !::i :: :: :: !:: :: :: :!
                      |: i::l:: :: :: :: /:: :: ://:: :: :: :: :: :i: l:: :: :: :i: :: :: : i
                      .':: i::l:: :: :: :/:: :: /: :/:: :: :: ハ:! :: :: V:: :: :: :i :: :: i:: !
                     /: : ! !:: :: ::/:/: /: :/: :: :: :/ N: 、:: ::!:: :: ::/:: :: ::l:: i
               .      /7:!: l::i: :: :/:/!:/:N/:: :斗7-─十ヘ:: :!::l: :/: __:: :j:ハ1
                    /'/::1::l::|:: ::l:/7 /X/'7'゙//i  _,.斗zマノ:: :/: /' l::/! !l
  いいだろう、      .    / Ⅵ!: l::i :: 1i!f/ぅ/、/ノ/   イfュんt7 7:/::/) /: ! l i !
                     / ,::N:!:: :: '.弋tツi             //::/_,ノ: ::i/ .
  この仇討ち、君に売ろう。    /   Ⅵ下: :: '.  i !          /7ソイ:: :: :: !
                       ' 、 マ:: !::ト、  '、       /ノ ノ l: :: :: i1
                          \ト、1ヘ  下こニ=- ノ /  .!:: :: ::ハ
                            \ \\ ー‐   ./  / ,オ::ヘ:N
                               lN\_,.  '´   //71::! jリ
                                ! l Mi!    / /,. -──z - .,
                                 1人   / /:::::::::::::::::/:::::::`ヽ、


       /\___/ヽ
      /:::::::       \
     |:::.   ''''''   ''''''  |
     |::::.,(一),   、(一)|
     |::::::: ノ ,,ノ(、_, )ヽ、,, |
       \:::::.ヽ`-=ニ=- ' /   へえ、確かに銀二貫でお売りいただきました。
     /   `一`ニニ´-,ー´
     /  | |    / |        おおきに、ありがとうさんでございました。
    /   | |  / | |
    /   l | /  | |
__/    | ⊥_ーー | ⊥_ ___
   |  `ーヽl_l_l.} ヽl_l_l.}
  (、`ーー、ィ   } ̄`   ノ
    `ー、、___/`"''-‐"


       青年はダディたちに背を向け、白銀の細道を遠ざかっていった。


.

68 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:48:32 ID:XDxaaqIE0
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                                ・
                                ・
                                ・
                               :
                               :
                               :
                             |



                             |
                             ¦
                                  !

69 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:50:19 ID:XDxaaqIE0


  ===================================================;;;|..│
 ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ
ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄
 ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄
==@==@==@==@==@==r─ー─‐-──ー┐@==@==@==@==@==@==
─────────‐|  井  川  屋.│─────────
:: : :| |;;| :::: :::: :____`ー─-─-‐ー─┘____:::::::::::::: :| |;;| :
  | |;;|   ::||三三三| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|三三三||:    | |;;|
  | |;;|   ::||三三三|__|__,,ノ___,ノ___,,|三三三||:    | |;;|
  | |;;|   ::||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三三||:    | |;;|
  | |;;|   ::||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三三||:    | |;;|
  | |;;|:::: /||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三 /:: :::::::::::::| |;;|:::::
| ̄ ̄| ̄ ̄|. ||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三|| ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄
|    |    |. ||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三||  |    |    |
|    |    |. ||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三||  |    |    |
|__|__|/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;||_|__|__|_

           大坂 天満   井川屋


.

70 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:50:56 ID:XDxaaqIE0


      帳場で主のダディから話を聞き終えた番頭のいく夫は、

           掠れた声をなんとか絞り出して尋ねた。


     _____
..   /.:::::::::::::::::::::::::::ヽ
..   |:::::::γ⌒^Y⌒ヽ :.|
..   |:::::::::/ ._ノ  ヽ  ..|          ダン
   |:::::::〉 ( ○) (○)|   …ほ、ほな旦那さん、
.  (@ ::::⌒(__人__)⌒)
    |  u   |r┬-|  |   そのお侍のお子を
    \    `ー'´ /
,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.   この井川屋に引き取りなはるおつもりで?
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
    |  \/゙(__)\,|  i |
    >   ヽ. ハ  |   ||

  井川屋 番頭  いく夫




    __/ヽ_∠L_
   /:::::::     ''''\
  .|:::::::::    (●), |   あほ言いな、
  |::::::::      ,,イ_,`)
.   |:::::::::      ノ.-=ラ   侍の子を養うほど私かて酔狂ちゃいまっせ。
   \:::::::      `フ
,,.....イ.ヽヽ::  、 -─'--、.  迎えるんやったら丁稚としてや。
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
    |  \/゙(__)\,|  i |
    >   ヽ. ハ  |   ||


   忠実な番頭の両の拳が膝の上でぶるぶると震えているのを見てとると、

          ダディはわざとのんびりとした声で答える。


.

71 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:52:42 ID:XDxaaqIE0


                    いく夫が大声を張り上げる。


     _____
   /.::::::::::::::::::::::::::.ヽ
   |.:::::::::γ⌒Y⌒ヽ::.|
   |::::::::/ \::::::::/i:::|
   |:::::::〉( ●)::( ●).|   丁稚やったら、
  .(@ ::::::⌒(__人__)⌒)
    |      ` ⌒´  |    今の井川屋にはこれ以上必要おまへん!
   \         ,/
,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
   |  \/゙(__)\,|  i |
   >   ヽ. ハ  |   ||


     _____
   /.::::::::::::::::::::::::::.ヽ
   |.:::::::::γ⌒Y⌒ヽ::.|
   |::::::::/ \:三::/i:::|    番頭の私に、手代のドヤが夫、
   |:::::::〉( ○)::( ○).|
  .(@ ::::::⌒(__人__)⌒)    丁稚のやらない夫とわる夫に女衆も一人いてますのや、
    |  u   |i|!i|!|  |
   \    `⌒´ ,/     人手は充分足りてます!
,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i    ましてや何の役にも立たへんお武家さんやて、考えられへん!
   |  \/゙(__)\,|  i |
   >   ヽ. ハ  |   ||


   今年四十五になる番頭のいく夫は、ダディにとってはまさに右腕とも呼べる存在であり、

     長年苦楽を共にしてきた古女房にも似て、口煩くも上手く添いたい相手であった。


.

72 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:53:33 ID:XDxaaqIE0


      /\___/ヽ
     / ,,,,,,,ノiヽ,,,,,,:::i|li:\
  .  |(○),   、(○)、 :|
  .  | ⌒,,ノ(、_, )ヽ⌒ u.::|
  .  |.u   (^・^>  。.:::::::|     役に立たんかどうか、
    \ ゚  ⌒´ u .::::/
  ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、.     まだわからんやないか。
  :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
     |  \/゙(__)\,|  i |
     >   ヽ. ハ  |   ||


     _____
   /.::::::::::::::::::::::::::.ヽ
   |.:::::::::γ⌒Y⌒ヽ::.|
   |::::::::/ \:三::/i:::|       立ってたまりまっかいな、んなもん!
   |:::::::〉( ○)::( ○).|
  .(@ ::::::⌒(__人__)⌒)       お武家が算盤入れられまんのか?
    |  u   |i|!i|!|  |
   \    `⌒´ ,/       お客はんに頭、下げられまんのか?
,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i      旦那さん、そら無茶だすで!
   |  \/゙(__)\,|  i |
   >   ヽ. ハ  |   ||


.

74 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 21:55:44 ID:XDxaaqIE0


      /\___/ヽ
    /''''''   '''''':::::::\
  .  |(●),   、(●)、.:|     まあ、そないに怒りないな。
  .  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, u::|
 .   |  u `-=ニ=- ' .:::::::|     うちの丁稚にするかどうか、
    \  `ニニ´  .u:::/
  ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、.    美濃志摩屋の仕込みしだいやがな。
  :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
    |  \/゙(__)\,|  i |
     >   ヽ. ハ  |   ||


      _____
 ..   /.:::::::::::::::::::::::::::ヽ
 ..   |:::::::γ⌒^Y⌒ヽ :.|
 ..   |:::::::::/ ._ノ  ヽ  ..|
    |:::::::〉 ( ○) (○)|
 .  (@ ::::⌒(__人__)⌒)    美濃志摩屋はん?
     |  u   |r┬-|  |
     \    `ー'´ /
 ,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.
 :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
     |  \/゙(__)\,|  i |
     >   ヽ. ハ  |   ||


.

75 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:00:58 ID:XDxaaqIE0


           __/ヽ_∠L_
          /:::::::     ''''\
         .|:::::::::    (●), |
         |::::::::      ,,イ_,`)
       .   |:::::::::      ノ.-=ラ   ああ、弔いをすませた後
          \:::::::      `フ
       ,,.....イ.ヽヽ::  、 -─'--、.  伏見の天場 ― 寒天場に預けてきたんや。
       :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
           |  \/゙(__)\,|  i |
           >   ヽ. ハ  |   ||


   ┌─────────────────────────────────────┐
   └─────────────────────────────────────┘
   ┌───────────────┐
   └───────────────┘
   ┌───┐
   └───┘


.

76 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:01:50 ID:XDxaaqIE0


          あの後、茶店に運び医者を呼んだが、

   時を置かずオプーナは息子鶴之助に看取られて事切れた。


                ./ ̄\
             __|    |__
           r'´. ̄ ̄ \_/  ̄ `、::.
          ヘ,___,____ .|_____./::._
           | |    / ̄ ̄\   |、:..
           | |  / ノ  \ \ |::..
           | | / <ー>::::::<ー> \|l、:::
          | | |    (__人__)   |l:::::
           | | \   ` ⌒´   /.ll::::
           | |,r'",´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ、|l::::
           | |         ::::....  ..:::|l::::
           | |             |l::::


          /\___/ヽ
          /''''''   '''''':::::::\
        |(●),   、(●)、.:|
        |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
        |   `-=ニ=- ' .:::::::|+
          \  `ニニ´  .:::::/     , - -、’
          /:: ::\  //::::: \     / (● ●)ヽ
         /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\   ゝ (_人_) ノ
        /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i   /      \


   簡素な弔いをすませた後、ダディは美濃志摩屋に引き返し

            鶴之助を託したのである。


.

77 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:06:27 ID:XDxaaqIE0
    □
   ┌──┐
   └──┘
   ┌──────┐
   └──────┘
   ┌───────────────────┐
   │                                      │
   └───────────────────┘
   ┌──────────────────────────────────────┐
   │                                                                            │
   │                                                                            │
   └──────────────────────────────────────┘


.

78 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:06:54 ID:XDxaaqIE0


          /\___/ヽ
        /''''''   '''''':::::::\      父親が辻斬りで殺された、いうことにしたら
       . |(●),   、(●)、.:|
        |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|      えろう同情してくれはってなぁ。
      .   |   `-=ニ=- ' .:::::::|
        \  `ニニ´  .:::::/      とりあえずひと月ほど預かってもらうことになってん。
      ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、.
      :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i     客扱いやないで、天場に住み込んで寒天作りをひととおり
        |  \/゙(__)\,|  i |
        >   ヽ. ハ  |   ||    仕込んでもらうことになってる。


         _____
        /:::::::::::::::::::::::::::.\
       |.::/⌒Y⌒ヽ:::::::::::.|
       | ノ   \  i:::::::|
       |(─) (─ ) 〈::::::|       何や、
      (⌒(__人__)⌒:::: @)
       |  |r┬-|  u  |        それやったら気ぃ揉まんかてよろしおすわ。
       \ `ー'´    /
      ,-- ゝーー ___/ /ゝ--、
     イ / |.!、 _____ / ノ |   i
     | i  |,/(__)ヽ/   |   l


                 いく夫は安堵したように溜息を吐く。


.

79 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:09:05 ID:XDxaaqIE0


            _____
          /.::::::::::::::::::::::::::.ヽ
          |.:::::::::γ⌒Y⌒ヽ::.|
          |::::::::/ ノ   ― |
          |:::::::〉 ( ●) (●)|
          (@ ::::⌒(__人__)⌒)      天場は大の大人でも辛いとこでっさかい、
           |     |r┬-|  |
           \    `ー'´ /      じきに逃げ出しますやろ。
       ,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.
       :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
          |  \/゙(__)\,|  i |
          >   ヽ. ハ  |   ||


           /\___/ヽ
          /''''''   '''''':::::::\
         . |(ー),  、(ー)、.::::::|
         |  ,,ノ(、_, )ヽ、,,,,, .::::|      ……さあて、それはどやろか。
       .   |  `-=ニ=- '  .:::::::|
          \  `ニニ´  .:::::/
       ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、.
       :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
           |  \/゙(__)\,|  i |
           >   ヽ. ハ  |   ||


.

80 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:09:35 ID:XDxaaqIE0


   ルルーシュに刃を突き付けられても、父を守ろうとした鶴之助。

                    ____
                   / ヽ  ノ \
                 /  ●::::::::::● \
                 | ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|
                 ヽ     ⌒  ィ’


   弔いの場でも、拳を震わせながら涙をこらえていた鶴之助。

                     ____
                    / ヽ  ノ \
                  /   >::::::::::< \
                  | ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|
                  ヽ     ⌒  ィ’


     幼いながらも、土性骨が据わっているに違いなかった。


.

81 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:10:45 ID:XDxaaqIE0


  寒天場でのひと月の労働は、世間での一年にも相当する。


ニニ             ーーーーーニニニニニ从        从
  从      r zzzzzzzzzz┐      从ミ     从 从从
 彡ミミ   /\\\\\\\ 爻乂 爻彡ミ 从 彡ミ 从 从
 爻乂ミ ∠ r‐┐;\\\\\\\r zzzz┐从 爻ミ 爻 彡ミ 彡ミ
 爻,彳爻 | ̄ ̄ ̄「「「「「「「「「「「「「 \\\\ミ 爻ミ 爻乂ミ 爻ミ
 爻 爻爻乂 田] ll l l l l l l l l l l l |  ̄「「「「「「从 从ミ 从爻从ミ
 爻 乂乂乂爻   ll l l l l l l l l l l l |三]l l l l l彡爻爻乂 乂ミ爻爻爻
 爻爻乂乂爻爻 ∧ ∧辷二 ≦三三三三三三三二二ニニニニ=
 三三三三三≧ (#゚Д゚)―  ̄ ̄
         ヽノつつ                  ∧ ∧, _ r''''
        ⊂(  Y             ,,,,,,,,,,,   (゚Д゚#)
           ヽ)    ,,,,_ 彡'''''''    ニ   と とヽノo
          ,,, rv┐  ゚              ゚ oY  )⊃
     ,,,o,, 彡 O   o            r、     (ノ   rv┐
  '''''   rv┐           ゚ 。      oo 8    r┐  o


           それほどまでに過酷なのだ。


.

82 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:11:53 ID:XDxaaqIE0


    __/ヽ_∠L_
   /:::::::     ''''\
  .|:::::::::    (●), |  (たとえ、ひと月でも厳しい天場の暮らしに耐えられるんなら
  |::::::::      ,,イ_,`)
.   |:::::::::      ノ.-=ラ   アキンド
   \:::::::      `フ   商人として仕込む甲斐もあるかもしれへん……)
,,.....イ.ヽヽ::  、 -─'--、.
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
    |  \/゙(__)\,|  i |
    >   ヽ. ハ  |   ||


.

83 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:12:12 ID:XDxaaqIE0
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                                ・
                                ・
                                ・
                               :
                               :
                               :
                             |



                             |
                             ¦
                                  !

84 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:13:11 ID:XDxaaqIE0


            ―― それから一カ月 ――


  ===================================================;;;|..│
 ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ
ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄
 ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄
==@==@==@==@==@==r─ー─‐-──ー┐@==@==@==@==@==@==
─────────‐|  井  川  屋.│─────────
:: : :| |;;| :::: :::: :____`ー─-─-‐ー─┘____:::::::::::::: :| |;;| :
  | |;;|   ::||三三三| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|三三三||:    | |;;|
  | |;;|   ::||三三三|__|__,,ノ___,ノ___,,|三三三||:    | |;;|
  | |;;|   ::||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三三||:    | |;;|
  | |;;|   ::||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三三||:    | |;;|
  | |;;|:::: /||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三 /:: :::::::::::::| |;;|:::::
| ̄ ̄| ̄ ̄|. ||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三|| ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄
|    |    |. ||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三||  |    |    |
|    |    |. ||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三||  |    |    |
|__|__|/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;||_|__|__|_


.

85 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:13:49 ID:XDxaaqIE0


   その日は出来上がった寒天が天満の船着場に届けられることになっていた。


                /\___/ヽ
            /''''''   '''''':::::::\
             |(●),   、(●)、.:|
             |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .:::|
             |   `-=ニ=- ' .:::::::|        いく夫、今日の荷受けな、
            .\  `ニニ´  .:::::/
             /ゝ    "`   ィ `ヽ.       久しぶりに私が行ってくるよって。
            /                 \
  ,⊆ニ´⌒ ̄ ̄"  y           r、  ヽ
  ⊂二、 ,ノ──-‐'´|              | l"  |


                _____
               /.::::::::::::::::::::::::::.ヽ
               /.::::::γ⌒Y⌒ヽ::.|        ダン
               |::::::::/ ⌒  ⌒ |       旦那さん、
               |:::::::〉 ( ●) (●)|
              (@ ::::⌒(__人__)⌒)      せやったらやらない夫でも
               |      |r┬-|  |
               \     `ー'´ /       連れて行っておくれやす。
           ,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、..
           :   |  '; \_____ ノ.| ヽ \     べか車も使うてもろてかましまへんさかい。
               |  \/゙(__)\,|  i  |
               >   ヽ. ハ  |   | |

                                              【べか車】荷車のこと



.

86 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:14:39 ID:XDxaaqIE0


        /\___/ヽ
       / ,,,,,,,ノiヽ,,,,,,:::i|li:\
      |(○),   、(○)、 :|
      | ⌒,,ノ(、_, )ヽ⌒ u.::|
      |.u   (^・^>  。.:::::::|     そないな大層な真似せんでもよろしわ。
      \ ゚  ⌒´ u .::::/
   ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、.
   :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
      |  \/゙(__)\,|  i |
      >   ヽ. ハ  |   ||


       _____
     /.:::::::::::::::::::::::::::ヽ
      |.:::::::γ⌒^Y⌒ヽ::.|
      |::::::::ゝ ―  ― |
     |::::::( ( ●) (●)|       なに言うてまんのや、
     (@  ::::⌒(__人__)⌒)
      |     ` ⌒´  |       膝の具合かてよろしないのに。
      \         /
   ,,.....イ.ヽヽ、___ ーノ゙-、.
   :   |  '; \_____ ノ.| ヽ
       |  \/゙(__)\,|  i


.

87 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:16:41 ID:XDxaaqIE0


           /\___/ヽ
         /''''''   '''''':::::::\
         |(●),   、(●)、.:|
         |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|        大丈夫や、寒ないさかいな、
         |   ´トェェェイ`  .::::::|
         \  |,r-r-|  .::::/         そこまで痛うないねん。
       ,,.....イ.ヽヽ、`ニニ´ーノ゙-、.        /^)
       :   |  '; \_____ ノ.| ヽ iヽ __ ‐┘(
          |  \/゙(__)\,|  i |´⌒ )二  ト、



           /`ー──一'\
          ,r(●)(、_, )、(●)\
         .|  '"トニニニ┤'` .:::|
         .|   |   .:::|  .::::::|
         .|   ヽ  .::::ノ .::::::::|        ほな、行てくるわ。
          \   `ニニ´ ..::::::/
       ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ーーノ゙ -、
       :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
           |  \/゙(__)\,|  i |
           >   ヽ. ハ  |   ||


                   ダディは言って杖を握る。

              早朝の船便が到着する刻限が迫っていた。


.

88 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:17:18 ID:XDxaaqIE0


    井川屋を出て、大川にかかる天神橋を渡って船着き場へと向かう。


      /ロロロロロロ.\
ノ从 (")  、| 日門日|ノ'、| i | ___,,,..........,,,__li___,,,..........,,,__   li レ|i i i| |.|
/ロロロロロロ.\,,ミ 彳ゞ 木 / ,~ ,~~  ,~~ ~~~\ i /ロロロロロロ.\
、| 日門日|`|li|  i i_,,,-ー~~ ̄    ~~    ~~~    \、| 日門日|
,,ノi|i Lノl__,,,,,-ー''"~  ~~    ~~~~ ~  ~~ ;;;;~\` 、 l /ロロロロロロ.\
-ー''"~   ~~     ~~ ;;;;;;  ~~ ;;;;;;  ~ 、| ~   \ ` 、| 日門日|
___.○______,○______,○___\_ __,○___\____,○__
___| |______| |______| |______| |______| |_
|||| |||||||| |||||||| |||||||| |||||||| ||
|||| |||||||| || ∧_∧ || |||||||| |||||||| ||
|||| |||||||| ||( ´∀`) || ||||| || |||||||| ||
====__=======(    )============== .∧,,∧====
     ヽ|__ノ)    モォ ((  人 Y             ,ハ,,ハ       ノリノリハレリ
       (‘-‘ ハ   _)_, ―‐ 、し(_)    ∧,,∧     ( ゚ω゚ )     パー゚,ノリハ
     /(Y (ヽ_ /・ ヽ     ̄ヽ     彡・ー・ミ    ノ^ yヽ     リ( †リとリハ
      ノ___ゝ  ` ^ヽ ノ.::::::__( ノヽ    と @つ    ヽ,,ノ==l ノ   ハ/  '' ヽハリ
      _/ヽ      /ヽ ̄ ̄/ヽ        |  ,O     /  l |.,,   リ<ノ、ノ_,i_,ゝハ


    刻は明け六つ過ぎ、顔を出したばかりのお天道様に両の手を合わせ、

              一日の安全と商売繁盛を祈る。


                                         【明け六つ】午前六時


.

89 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:18:30 ID:XDxaaqIE0


             ――― 天満 船着き場 ―――


  ____________.  |    /           |:.. _____________
  !\:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:\ │    /__i __ヽ          |/:: :: :: :: :: :: ;:;:;:;:: :: ;;;;;;/
  | `ー'ー'ー'ー'ー'ー'┬' .|   /___;i___i_;ヽ       ィ'________;;イ、_,
  |  / /  ||      |  |   :./                 | i:':':':':':':':':':':':':':':':':':':i:
  |       ||      |_l:./          /___;i___i_;__ヽ|-------l::.  ::......
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄                      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄

tttttttttttttttttttttttttttttttttttttt            tttttttttttttttttttttttttttttt
''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"i二二二二二二二二!''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"
    ''"''              i二二二二二二二二!                ,″
   ,″    ''"''"         i二二二二二二二二!    ,″       ''"''"''
                  i二二二二二二二二!
''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"            "''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"''"

___________________________________
_i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_ _i_
~~~~~~~~::~~~~:::~~~~~~~~~~~~~~~~::::~~~~~~~~~~::~~~~~~~~~~~~~~:::~~~~~~~~~~~~~:::~~~~~~~
.:'':, ~~~.:'':,.:'':, ~~.:'':,.:'':,~~ ~~~.:'':,.:'':,~~~~~ .:'':,.:'':,~~~ .:'':,.:'':, ~~~~ .:'':,.:'':,.:'':,~~ .:'':,.:'':,~~
ノゝ~~ ノゝノゞ ~~ ノゞノゝ ~~ノゞノゝ ~~ ノゞゝ~ ~~ノゝノゞ ~~ノゝ~ノゞノゝ ~~ ノゝノゞ


.

90 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:18:54 ID:XDxaaqIE0


                      馴染みの船頭から声が掛る。


                          ,'´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`',
                          ! 井川屋はん!                        l
    ___,,ノ""''(,_             ∩_∩   !                                 l
    ヽ( ´ー`)ゝ  ∧∧    (Д`  ) ∠ 伏見の美濃志摩屋はんから荷ぃ届いてまっせ!  l
     (  つφ  (,,゚Д゚)    と,   つ  \                              ./
  ┌┐| | /    ( cっ)    r'^(  〈       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   | l ̄ ̄/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄(__) ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    〉只ゝ
   ~~~~~~~~~~~~_________ ~;=;~~//
   ~~^  ~^^^^~~    ^~  //V\ ,_, _;:__.__/i| |ニ|ミ、_ノノ
      .:: . ...           /._(    )___;,._/i|..  ^~~::゙ー'´
                    /,,_(     )__.__/i|.    ... ....
                  /_;_ ,,_| |  |__;,_/i|..          _
"''""'''"''''"''''''""""''""'''"      (__)_)  ""''""'''''"'''''"""'"''"r';;;;;;,ヽ


.

91 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:19:45 ID:XDxaaqIE0


                        ∧_∧     ┌┬┬┐
                 _ l~~)    (´∀` )     ├┼┼┤
  それと、預かりもんや。 !゙i~~    (     )    ├┼┼┤
                 l l゙ー-´- 、.,,| | |  /¨¨~j~ ̄--‐ |
                . l !       ~~¨'''' ー‐-‐'     7
                ─i、____________,/───


       __/ヽ_∠L_
      /:::::::     ''''\
     .|:::::::::    (●), |
     |::::::::      ,,イ_,`)     預かりもん?
   .   |:::::::::      ノ.-=ラ
      \:::::::      `フ
   ,,.....イ.ヽヽ::  、 -─'--、.
   :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
       |  \/゙(__)\,|  i |
       >   ヽ. ハ  |   ||


.

92 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:20:16 ID:XDxaaqIE0


  荷の山に隠れるように、鶴之助が緊張した面持ちで立っていた。
            ___  ___
           /ノ  ヽ__ ≡u ノ \
         /●   ●      ●  \
         | (_,、_,) ⊂⊃  ⊂⊃ (_,、_,)|
         >u⌒     ≡    ⌒ ィ’




           彼はダディを認めると、
               ___
              /\  /\
            / ○    ○ \
            |⊂⊃ (_,.、_,) ⊂⊃|
            >           <




  両の手を膝の前で重ねて腰を落とし、深く一礼した。
               ___
             /     \
            / \ /   ヽ
            | 〓   〓   |
             >(_,、_,)⊂⊃ イ
           /  /ヽ/   ヽ
           /  /   /  /   )
          {  ij  /{  ij .. /
           ー'  _|  ー'   |
              (___ (___ノ


.

93 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:21:00 ID:XDxaaqIE0


                  ダディは内心感嘆した。


    /\___/ヽ
   /''''''   '''''':::::::\
.  | (0),   、(0)、.:|
.  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|    (さすが美濃志摩屋の仕込みやなぁ)
.   |    `ー― '  .::::::::|
   \  ` ̄´  .::::::/     (所作が武家やのうて、商人のもんになってるわ)
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ーーノ゙ -、
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
    |  \/゙(__)\,|  i |
    >   ヽ. ハ  |   ||


    __/ヽ_∠L_
   /:::::::     ''''\
  .|:::::::::    (●), |
  |::::::::      ,,イ_,`)
.   |:::::::::      ノ.-=ラ    お前はん、口上はどないしたんや?
   \:::::::      `フ
,,.....イ.ヽヽ::  、 -─'--、.
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
    |  \/゙(__)\,|  i |
    >   ヽ. ハ  |   ||


       それでもその思いを表情には出さず、わざと厳しい口調で問うた。


.

94 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:21:27 ID:XDxaaqIE0


   鶴之助はしばしの間戸惑った後、おどおどと言葉を発した。


       ____
      /一  ー\
    / 〓   〓  \
    |⊃ (_,、_,) ⊂⊃ |
    /⌒l       ィ’      父上のことではお世話になり…
   /  /        ヽ
    ヽ_ |       Y  |
     |       |  |
     |       ゛、ノ


       /\___/ヽ
     / -‐'  'ー-  \
    . | (●),(、_,)、(●) ::|
    |    /,.ー-‐、i  :::::|      そんなこと聞いてんのと違う。
    |    //⌒ヽヽ  .::|
    |    ヽー-‐ノ  :::::|
     \    ̄   ...::/
     /`ー‐--‐‐―´\


             ダディはきつい口調で遮る。


.

95 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:21:55 ID:XDxaaqIE0


        /\___/ヽ
      /''''''   '''''':::::::\
      |(●),   、(●)、.:|
      |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|     商人にとっての口上いうんは、
      |   `-=ニ=- ' .:::::::|
      \  `ニニ´  .:::::/     商い上の要件を要領よう先方に伝える
    ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、.
    :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i    挨拶のことや。
       |  \/゙(__)\,|  i |
       >   ヽ. ハ  |   ||


        __/ヽ_∠L_
       /:::::::     ''''\
      .|:::::::::    (●), |
      |::::::::      ,,イ_,`)    親の生き死にやら関係あらへん。
    .   |:::::::::      ノ.-=ラ
       \:::::::      `フ     どっから何をどんだけ持って来たんか、言うてみい。
    ,,.....イ.ヽヽ::  、 -─'--、.
    :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
        |  \/゙(__)\,|  i |
        >   ヽ. ハ  |   ||


.

96 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:22:22 ID:XDxaaqIE0


        ____
      ; /\ u./\ ;     み、美濃志摩屋、からの
   .  / ●   ●  \ .    寒天、ですお
   ;: |⊃ (_,、_,) ⊂⊃ | {    お、お手紙、
    r'⌒) {  }  (´ jイ ;     預かって、ますお
    | ´   ̄  ヽ  |


       /\___/ヽ
      /''''''   '''''':::::::\
     . |(●),   、(●)、.:|
     |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
   .   |   `-=ニ=- ' .:::::::|     よっしゃ。
      \  `ニニ´  .:::::/
   ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、.
   :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
       |  \/゙(__)\,|  i |
       >   ヽ. ハ  |   ||


               ダディは満足げに頷く


.

97 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:23:06 ID:XDxaaqIE0


 鶴之助は懐から書き付けを取り出すと、ダディに手渡した。


                    Y⌒ヽ_
                 Y⌒',   \`ヽ
               ,イ´',   ',  ヽ `ヽ`ヽ
                {  ', ; `   ;;  ` ハ
              ,イヽ  イ ヾ ::. ::     }
             ヽ  ヽ  :: :: ::      {
                \  ::  ::       ヽ
                 ヽ
                 `ー―‐-、


   書き付けを渡すその手は霜焼けで真っ赤に腫れあがり、

    ところどころあかぎれがぱっくりと口を開いている。


.

98 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:24:42 ID:XDxaaqIE0


               ダディの目がふっ、と和んだ。


       /\___/\
     / ―   ー ::\
      |  --、,   、ー-、  .|
      |  ,,ノ(o_o.)ヽ、,  .::|      (大の大人でも音を上げる厳しい寒天場で
      |   、___   .:::|
     \  `二二´  .::/      この子はひと月立派にやりきりおったんや……)
      `ー‐--‐‐一''´
      /:: ::\  //::::: \
     /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\
    /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i


              ダディの胸に暖かい灯がともる。


.

99 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:25:11 ID:XDxaaqIE0


     ダディは膝を屈めて鶴之助の顔を覗き込んで言った。


      /\___/ヽ
     /''''''   '''''':::::::\
  .   |(●),   、(●)、.:|
    |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|     どや、井川屋の丁稚になるか?
  .   |   `-=ニ=- ' .:::::::|
     \  `ニニ´  .:::::/     侍を捨てて、商人になって生きるか?
      `ー‐--‐‐―´
      /:: ::\  //::::: \
     /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\
    /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i


        そうする以外、彼に生きていく術は無いと、

          重々承知の上での問いかけだった。


.

100 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:25:50 ID:XDxaaqIE0


     案の定、鶴之助は一瞬の迷いも見せず、頷いて見せた。


               ___
              /\  /\
            / ●    ● \   はい。
            |⊂⊃ (_,.、_,) ⊂⊃|
            >           <


    /\___/ヽ
   /''''''   '''''':::::::\
.  |(●),   、(●)、.:|        よっしゃ、
.  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
.  |   ´トェェェイ`  .::::::|        ほなこの荷ぃ持ってついてきなはれ。
   \  |,r-r-|  .::::/
,,.....イ.ヽヽ、`ニニ´ーノ゙-、.        /^)
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ iヽ __ ‐┘(
    |  \/゙(__)\,|  i |´⌒ )二  ト、


.

101 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:26:27 ID:XDxaaqIE0


  ダディは積荷の寒天を二つに分け、小さい方を鶴之助に背負わせた。

 自分も大きい荷を背中に背負うと、杖をつきながら先に立って歩き出した。


           /\___/ヽ
         /''''''   '''''':::::::\
         |(●),   、(●)、.:|
         |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
         |   `-=ニ=- ' .:::::::|+
         \  `ニニ´  .:::::/     , - -、’
          /:: ::\  //::::: \     / (● ●)ヽ
          /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\   ゝ (_人_) ノ
         /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i   /      \


    鶴之助は、主人からはぐれぬよう、必死の形相でついて行く。


.

102 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:27:14 ID:XDxaaqIE0


      /ロロロロロロ.\
ノ从 (")  、| 日門日|ノ'、| i | ___,,,..........,,,__li___,,,..........,,,__   li レ|i i i| |.|
/ロロロロロロ.\,,ミ 彳ゞ 木 / ,~ ,~~  ,~~ ~~~\ i /ロロロロロロ.\
、| 日門日|`|li|  i i_,,,-ー~~ ̄    ~~    ~~~    \、| 日門日|
,,ノi|i Lノl__,,,,,-ー''"~  ~~    ~~~~ ~  ~~ ;;;;~\` 、 l /ロロロロロロ.\
-ー''"~   ~~     ~~ ;;;;;;  ~~ ;;;;;;  ~ 、| ~   \ ` 、| 日門日|
___.○______,○______,○___\_ __,○___\____,○__
___| |______| |______| |______| |______| |_
|||| |||||||| |||||||| |||||||| |||||||| ||
|||| |||||||| || ∧_∧ || |||||||| |||||||| ||
|||| |||||||| ||( ´∀`) || ||||| || |||||||| ||
====__=======(    )============== .∧,,∧====
     ヽ|__ノ)    モォ ((  人 Y             ,ハ,,ハ       ノリノリハレリ
       (‘-‘ ハ   _)_, ―‐ 、し(_)    ∧,,∧     ( ゚ω゚ )     パー゚,ノリハ
     /(Y (ヽ_ /・ ヽ     ̄ヽ     彡・ー・ミ    ノ^ yヽ     リ( †リとリハ
      ノ___ゝ  ` ^ヽ ノ.::::::__( ノヽ    と @つ    ヽ,,ノ==l ノ   ハ/  '' ヽハリ
      _/ヽ      /ヽ ̄ ̄/ヽ        |  ,O     /  l |.,,   リ<ノ、ノ_,i_,ゝハ


      道中、天神橋に差し掛かったところで、ダディは足を止めた。


.

103 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:27:49 ID:XDxaaqIE0


    /\___/ヽ
   /''''''   '''''':::::::\
.   |(●),   、(●)、.:| +
  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|            どや、
.   |   ´トェェェイ`  .::::::| +
   \  |,r-r-|  .::::/     +       長い橋やろ?
,,.....イ.ヽヽ、`ニニ´ーノ゙-、.        /^)
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ iヽ __ ‐┘(
    |  \/゙(__)\,|  i |´⌒ )二  ト、


           ____
          /⌒  ⌒\
        /  ●   ● \
        | ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|    はいですお
        ヽ    (_.ノ   ィ’


              鶴之助は素直に頷く。


.

104 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:28:26 ID:XDxaaqIE0


    鶴之助を東側の欄干まで連れて行き、北側を杖で指し示す。

    __/ヽ_∠L_
   /:::::::     ''''\
  .|:::::::::    (●), |
  |::::::::      ,,イ_,`)   あれが天満の青物市場や。
.   |:::::::::      ノ.-=ラ
   \:::::::      `フ    大坂中の美味い食材があつまる場所なんやで。
,,.....イ.ヽヽ::  、 -─'--、.
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
    |  \/゙(__)\,|  i |
    >   ヽ. ハ  |   ||


    /\___/ヽ
   /''''''   '''''':::::::\
  . |(●),   、(●)、.:|
  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|   そのままずっと東に行ったら橋があるやろ。
.   |   `-=ニ=- ' .:::::::|
   \  `ニニ´  .:::::/   あれが天満橋。井川屋はあの辺りや。
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、.
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
    |  \/゙(__)\,|  i |
    >   ヽ. ハ  |   ||


.

105 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:29:02 ID:XDxaaqIE0


          ___
         /ノ  ヽ_\
       / ●   ●  \   なんで、天満橋を通らないんですかお?
       |⊃ (_,、_,) ⊂⊃ |
       >        ィ’


        /\___/\
      / ―   ー ::\
       |  --、,   、ー-、  .|
       |  ,,ノ(o_o.)ヽ、,  .::|    ……
       |   、___   .:::|
      \  `二二´  .::/
      /`ー‐--‐‐一''´\


               ダディは苦笑する。


.

106 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:29:39 ID:XDxaaqIE0


            店には天満橋のほうが近いが、

       橋を渡り切ったところには東町奉行所が控え、

          そこから東には大坂城がそびえている。


.                  {}
                 ,r'A':、
               ,r:'"/\`':.、
.         、_____,、.‐',,、_'___n,n__`_、,,`-、,_____、
.         ゙l、,!_l_l_l_l_l_l_l_l_l_l_l_l_l_l_l_l_l_l_l_l,!、l゙
           |:::::::::::::::::::::::::::::n::::::::::::::::::::::::::::::|,
          ';王王王王王八王王王王王ヨ
           ]*;;r--.、;*r;"へ`':.*;;、--.、*;[
        _、,,,,,f'''*;;;^r:'",r'"' へ:'`' 、`':、^;;;*、L,,,,,.、
        ゙、=┴'ァ゙'"r'"´.:.:.:.:.:...:.:.:.:.:..`'-、`'=t┴=',゙
        ゙r:''",r'"..:.:.:.:.:.:lコ:lコ:lコ:lコ.:.:.:.:.:..`';;,、` ‐!、
    ゞェェtエ゙┼┬i┬┬┬┬rハ┬┬┬┬i┬┼┬t'ェェブ
     ゙,~~i~~~~~~~~~~~~~~~~~{n}~~~~~~~~~~~~~~~~~i~~゙;┐
     「;、.|  .冂 冂  冂l:''"..へ`' .l,冂  冂 冂  .|.. .|Ti
ゝ,、,,,,、、!‐''"┬┬┬┬;、‐'":'"::: ヘ:::`:.、`‐、┬┬┬┬┬`ーf-、、ィ,
ソ;゙、ニ┴┴┴┴┴ァ'"r:'´。 ......::.. .:....... 。'‐、`'t┴┴┴┴┴=゙7
ヽゞz、:|;ヘ「]「],r'"r'´、z、r、、.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.. `': 、`'-.「]「] .|_,'、
Y;;ゝヾi彡〉''"r''";ヾ;ゞ::::ゞヾヽ]「バヘ,'z]「:]:.:.:.:.:.:...`''‐`、':-.、,|l l l.゙i
ソ ヽ;; i;;ゝソ ヽ;;ゝ彡ソ ヽ;;ゝゞヽi;ゞ::::ゞヾ;ヘ――――,rz、;ヘz、`''ー-、;;ソゞヘ
ヽ;;;;ゝヾiヽ;;;;ゝヾゝヾ;ゞ::::ゞヾ;iゝヾ;ゞ::::ゞヾヘソ;ミ^ゝヾ;ゞ:::ゞヾミヘtz彡ヾ;ゞ;ゞ
ヽ;;;;ゝヾ;ヽ;;;;ゝヾ;ゞ::::ゞヾヽ;;;;ゝヾ;ヽ;;;;ゝヾ;ゞ::::ゞヾヽ;;;;ゝヾ;ヽ;;;;ゝヾ;ゞ::::ゞヾ
ゞヾ;;;ゝヽヾ ;;;;ゝヾ;;ゝヾ ヽゞヾ;;;ゝヽヾ ;;;;ゝヾ;;ソヾ ヽゞヾ;;;ゝヽヾソ;;;;ゝヾ
ヾ ;;;;ゝヾ;;ゝヾ ソゞヾ;;;ゝヽヾ ;;;;ゝヾ;;ゝヾ ヽゞヾ;;;ゝヽヾソ;;;;ゝヾ;;ゝヾ ヽゞ


           自然、天満橋には武士の往来も多く、

       面倒事を嫌う商人は天満橋を避けるのが常だった。


.

107 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:30:50 ID:XDxaaqIE0


       鶴之助の問いには答えず、天神橋の先へと指を伸ばす。


    __/ヽ_∠L_
   /:::::::     ''''\         ここを真っ直ぐ抜けた先に天満天神社があるんや。
.   |:::::::::    (●), |
  |::::::::      ,,イ_,`)        地元の人間は『天満の天神さん』て気安う呼ばしてもろてる。
.   |:::::::::      ノ.-=ラ
   \:::::::      `フ         この天神橋はな、元々は天神さんが管理してはった。
,,.....イ.ヽヽ::  、 -─'--、
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i       せやから『天神さんの橋』で、天神橋ちゅうわけや。
    |  \/゙(__)\,|  i |
    >   ヽ. ハ  |   ||


    /\___/ヽ
   /''''''   '''''':::::::\
.   |(●),   、(●)、.:|
  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|         お前はんもな、
.   |   `-=ニ=- ' .:::::::|
   \  `ニニ´  .:::::/         盛大にこの橋を渡らしてもらうんやで。
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
    |  \/゙(__)\,|  i |
    >   ヽ. ハ  |   ||


         そう言うと、また杖をつきながら歩きはじめたのだった。


.

108 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:31:23 ID:XDxaaqIE0
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                                ・
                                ・
                                ・
                               :
                               :
                               :
                             |



                             |
                             ¦
                                  !

109 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:32:09 ID:XDxaaqIE0


  ===================================================;;;|..│
 ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ
ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄
 ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄ノ ̄
==@==@==@==@==@==r─ー─‐-──ー┐@==@==@==@==@==@==
─────────‐|  井  川  屋.│─────────
:: : :| |;;| :::: :::: :____`ー─-─-‐ー─┘____:::::::::::::: :| |;;| :
  | |;;|   ::||三三三| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|三三三||:    | |;;|
  | |;;|   ::||三三三|__|__,,ノ___,ノ___,,|三三三||:    | |;;|
  | |;;|   ::||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三三||:    | |;;|
  | |;;|   ::||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三三||:    | |;;|
  | |;;|:::: /||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三 /:: :::::::::::::| |;;|:::::
| ̄ ̄| ̄ ̄|. ||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三|| ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄
|    |    |. ||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三||  |    |    |
|    |    |. ||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三||  |    |    |
|__|__|/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;||_|__|__|_


.

110 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:32:34 ID:XDxaaqIE0


      店に戻ったダディは、鶴之助を連れて朝餉の席に向かった。


==| l l||===||===||===||===| | |                . : : : : : : :
    | l l||      ||      ||      ||      | | |              . : : : : : : . . : : : :
==| l l||===||===||===||===| | |             . : : : : : .  . : : : :
    | l l||      ||      ||      ||      | | |           . : : : : .    . : : :
==| l l||===||===||===||===| | |          . : : : : .    . : :
    | l l||      ||      ||      ||      | | |        . : : : .      . : :
==| l l||===||===||===||===| | |
    | l l||      ||      ||      ||      | | |
==| l l||===||===||===||===| | |
    | l l||      ||      ||      ||      | | |
==| l l||===||===||===||===| | |
    | l l||      ||      ||      ||      | | |
二二| l |||二二二二二二二二二二二二二:|| | |
.:.:.:..: | l |||.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.|| | |
.:.:.:..: | l |||.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.|| | |
.:.:.:..: | l |||.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.|| | |
.:.:.:..: | l |||.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.|| | |
.:.:.:..: | l |||.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.:.:.:.i:.:.:.:.|| | |──────────
二二|_l_||l二二二二二二二二二二二二二二|/===================
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄// ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::                   //
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::               //
--- -- ------------------ //-- ------- --
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::          //
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::            //
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::                 //
------------- -- --- ---//----- ---- -
:::::::::::::::::::::::::::::::::::                  //


 井川屋では、主、奉公人ともどもが台所に並んで食事を取るのが習わしだった。


.

111 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:33:26 ID:XDxaaqIE0


     今、各々の箱膳を前に、主のダディと番頭のいく夫、


                             _____
      /\___/ヽ             /.::::::::::::::::::::::::::.ヽ
     /''''''   '''''':::::::\           |.:::::::::γ⌒Y⌒ヽ::.|
  .   |(●),   、(●)、.:| +         |::::::::/ \::::::::/i:::|
    |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|           |:::::::〉( ●)::( ●).|
  .   |   `-=ニ=- ' .:::::::| +        .(@ ::::::⌒(__人__)⌒)
     \  `ニニ´  .:::::/     +      |      ` ⌒´  |
  ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、           \         ,/
  :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i        ,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.
     |  \/゙(__)\,|  i |       :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
     >   ヽ. ハ  |   ||          |  \/゙(__)\,|  i |
                            >   ヽ. ハ  |   ||


.

112 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:33:54 ID:XDxaaqIE0


   手代のドヤが夫に、丁稚のわる夫とやらない夫が座り


         ____
       /_ノ '' ⌒\
     / ( ● ) (● )\               ____
    /:::::::⌒,  ゝ ⌒::::: \           /_) (_\
    |     `ー=-'     |          / 【●】| |【●】 \
    \            /         /    ._| |_,     \
    /     ∩ノ ⊃  ヽ          |     \/      |
    (  \ / _ノ |  |          \     -==-      /
    .\ “  /__|  |
      \ /___ /


          ──.
       /ノ ⌒ \
       |(●)(●)|                ____
   .     | (__人__) |               / ヽ  ノ \
        !  `⌒´ /              /   ○::::::::::○ \
        ヽ    ノ              | ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|
        /   ヽ、              ヽ     ⌒  ィ’
        |     ニつ


      末席には緊張した面持ちの鶴之助が座っていた。


.

113 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:34:33 ID:XDxaaqIE0


             いく夫が不服そうに口を開く。


        _____
   ; /.::::::::::::::::::::::::::.:ヽ
    ; |.::::γ⌒ Yノ( ヽ::::::| ;
    ; |::::/  _ノ三ヽ、  |:::| ;     ……ほな、旦那さん。
   ; |:ノ(( 。 )三( ゚ )u::| ;
   ; (@ ⌒(__人__)⌒ @) ;    お引き合わせをお頼もうします。
    ; | u  |++++| ノ( | ;
    ; \   ` ⌒´⌒ / ;
    ; /           \ ;


       /\___/ヽ
      /''''''   '''''':::::::\
   .   |(●),    、(●)、.:|
     |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, u::|      お、おう。
   .   |  u `-=ニ=- ' .::::::|
      \  `ニニ´ .u ::/       (なんや、まだ怒ってんのかいな)
   ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ーーノ゙ -、
   :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
       |  \/゙(__)\,|  i |
       >   ヽ. ハ  |   ||


            ダディは頷いて一同を見渡す。


.

114 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:35:30 ID:XDxaaqIE0


        /\___/ヽ
       /''''''≡≡'''''':::::::\
.       |(●),   、(●)、.:|        今日からうちに奉公にあがった鶴之助や。
      |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
.       |   `-=ニ=- ' .:::::::|        呼び名は、まあ、後で考えるよって。
       \  `ニニ´  .:::::/
        /:: ::\  //::::: \        皆、よろしゅう頼むで!!
       /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\
      /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i
     f´:: ::i;;:: :: :: /:: :: :: :|;;;;;;;;:::|


           主の言葉に、全員が 『へえ』 と頭を下げる。


.

115 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:36:06 ID:XDxaaqIE0


      /\___/ヽ
     /''''''   '''''':::::::\
  .   |(●),   、(●)、.:|
    |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|      やらない夫、
  .   |   `-=ニ=- ' .:::::::|
     \  `ニニ´  .:::::/      お前はんは歳も近いよって、
      `ー‐--‐‐―´
      /:: ::\  //::::: \      色々と教えたんなはれ。
     /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\
    /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i


         .ノ 、 、
         ヘ) ヘ) .l
        (人__) |
        ヽ    ノ          へえ。
        /    ヽ
       ||    ||


        やらない夫は主に頭を下げたあと、

        鶴之助を見て、にっと歯を見せた


.

116 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:36:37 ID:XDxaaqIE0


     ダディは満足げに頷いたのち、鶴之助へ視線を戻した。


       __/ヽ_∠L_
      /:::::::     ''''\
   .   |:::::::::    (●), |         鶴之助、お前はんは、
     |::::::::      ,,イ_,`)
   .   |:::::::::      ノ.-=ラ        店の掃除、使い走り、台所の手伝い一切、
      \:::::::      `フ
   ,,.....イ.ヽヽ::  、 -─'--、        とにかく言われたことは手ぇ抜かんと、
   :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
       |  \/゙(__)\,|  i |       しっかり働くんやで。
       >   ヽ. ハ  |   ||


         ____
        /⌒  ⌒\
      /  ●   ● \         はい。
      | ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|
       ヽ    (_.ノ   ィ’


            板敷に手をついて鶴之助は答えた。


.

117 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:37:20 ID:XDxaaqIE0


            途端に、いく夫が目を吊り上げる。


     _____
   /.::::::::::::::::::::::::::.ヽ  」L
   |.:::::::::γ⌒Y⌒ヽ::.|  7「
   |::::::::/ \::::::::/i:::|
   |:::::::〉( ●)::( ●).|
  .(@ ::::::⌒(__人__)⌒)       何だす、その返事の仕方は。
    |      ` ⌒´  |
   \         ,/       丁稚の返事は『へえ』だすで!
,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
   |  \/゙(__)\,|  i |
   >   ヽ. ハ  |   ||


        ____
       / ノ  ヽ_\
     / u ● 三 ● \
     | ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|     へ、へえ!
     ヽ      |r┬|  ィ’
           `ー'´


   口調の激しさに、新入りの丁稚は青ざめて震え上がった。


.

118 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:37:49 ID:XDxaaqIE0


             いく夫がこうして声を荒げることは珍しかった。


      /\___/\
     /、-―' ゙、ー- :\
  .   | (○), 、 (○)、 .::|
    |  ,,ノ(、_, )ヽ、,,   .::|     (いく夫はお武家を嫌てるからなぁ)
  .   |   ,゛-=-'、  .:::::|
     \    '´`.:::  .::::/     (わたいがお武家の子ぉに銀二貫つぎ込んだんが
      .`ー‐--‐‐―´´
      /:: ::\  //::::: \                     気に食わんのやろなぁ)
     /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\
    /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i


.

119 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:38:26 ID:XDxaaqIE0
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                                ・
                                ・
                                ・
                               :
                               :
                               :
                             |



                             |
                             ¦
                                  !

120 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:39:02 ID:XDxaaqIE0


     午前中、新米丁稚の鶴之助は、やらない夫に掃除を習い、

       そのあと女衆を手伝って水廻りの仕事に精を出した。


      ,.:.:―:.:.、
     i:.:./⌒∞‐.:'´:.: ̄:.:`ヽ、
     ヽi ,/:.:.,:.:.l:.:.:ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.\
        //,:.'/l:/ヽ:l/ヽハ,:.:.:.:、:.:.ヽ      あかんあかん!
        〃:.{_{ \  / リ|:.:.:.:.:.:.i|
        レ!小l=(//)=(//)从::.|、:i|      飯炊くのに井戸水使うあほが
        ヽ|l⊃ 、_,、_,  ⊂⊃jノ/
        |ヽ、  ヽ._)   /|.:.!       居てますかいな!
         ヽ::l>,、 __, イァ_i.:/
       r ヽヽ::::::|ヽ`ー'´,1ー:::::ヽ、
       {  V:::::::::∨yヽ/::::::::::/,1


          ____
         / ノ  ヽ_\          す、すいませんですお。
       / u ● 三 ● \
       | ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|        (井戸水使わずに
       ヽ      |r┬|  ィ’
             `ー'´            どうやって飯炊くんだお?)


          .ノ 、 、
            ● ●) l            すんません、
          (人__) |
           /^)  .ノ            私がよう言うて聞かせまっさかい。
           ヽ   ヽ
          |   | |
          ゝl  lし'            ほら、こっちゃ来い。
            `(_ノ


          そう言って、やらない夫が鶴之助を引っ張っていく。


.

121 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:39:36 ID:XDxaaqIE0


      やらない夫は井戸のところまで鶴之助を連れてくると、

            井戸水をくみ上げて差し出した。


          , ,.ノ  、
          l (● ●
          |  (__人)       ほら、飲んでみ。
         ヽ    ノ
          ハ   ヽ        そしたらわかるやろ。
          l l    ll
         ( |    |)
          し  .J


        ____
      /⌒  ⌒\
     /  ◎   ◎ \
    | ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|           まっず!
    \   ゝ'゚  ≦三 ゚。 ゚
      。≧      三 ==-      なんだお、この水!!
       -ァ,       ≧=- 。
        イレ,、      >三  。゚ ・ ゚
       ≦`Vヾ     ヾ ≧
       。゚ /。・イハ 、、 `ミ 。 ゚ 。


.

122 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:40:21 ID:XDxaaqIE0


          ,.ノ 、 、
          lヘ) ヘ) .l        ここらの井戸はどこも鉄気が強うて
          (人__) |
          ヽ    ノn       飲めたもんやないやろ。
          /      ,た)
         ||    「        洗いもんや洗濯くらいにしか
         .(|      |
         .し    J        使われへんのや。


        ___
       /ノ  ヽ_\
     / ●   ●  \      じゃあ、飲み水はどうするんだお?
     |⊃ (_,、_,) ⊂⊃ |
     >        ィ’


.

123 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:41:20 ID:XDxaaqIE0


         , ノ  、 、
         .l(へ へ)|      大川(淀川)の水を水売りから買ってる。
         .| (_人_) |
         .ヽ    ノ      あっこの水壺に入ってるのがそうや。
         /    ヽ
        ||    ||      水壺の水は金かかってるさかいな、
        .(|      |)
        .し    J      無駄につこたら、番頭はんが怖いでー。


           ____
         ; /\ u./\ ;
  ガク ….  / ●   ●  \ .ガクガク.    そ、それは
      ;: |⊃ (_,、_,) ⊂⊃ | {
        r'⌒) {  }  (´ jイ ;        おっかないお……
        | ´   ̄  ヽ  |


.

124 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:42:01 ID:XDxaaqIE0


                  , ノ  、 、
.                l(● ●)|
.                | (_人_) |     まだ名乗ってへんかったな。
.                 ヽ    ノn
                   /      ,た)   丁稚のやらない夫や。
              ||    「
.                 (|      |     よろしゅう頼むで。
              .し    J


             ____
            / ノ  ヽ_\
          /  ●   ● \
          | ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|     彦坂鶴之助だお。
          ヽ     Lノ  ィ’
        c~、ノ        γーっ
         乂  ノ      i、_ノ’


.

125 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:42:29 ID:XDxaaqIE0


                   , ,.ノ  、
                    l (● ●       その名前、忘れた方がええで。
                    |  (__人)
                ヽ    ノ       丁稚になったからには、
                 ハ   ヽ
                   l l    ll       旦那さんが新しい名前をくれはるさかい。
                  ( |    |)
                   し  .J


              ___
             /ノ  ヽ_\
           / ● 三 ●...u\
           |⊃ (_,、_,) ⊂⊃ |      そ、そうなのかお?
           >  .|r┬|    .ィ’
        .        `ー'´


.

126 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:42:51 ID:XDxaaqIE0


               , ,ノ 、
                 l (● ●      ああ。
                 |  (__人)
                 ヽ    ノ      そもそも商人が姓を名乗ったりしたら
               ,イ ⊂ 二〕
                  /     /       奉行所に引っ張られんで。
                 (J  /ヽ \
                  Lノ  \__)


              ___
             /    ―\      商人…そっか。
           /      ● ヽ
           |     ⊂⊃ (_,、)    商人になったんだ。
           ヽ          ィ’


.

127 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:43:13 ID:XDxaaqIE0


              ___
            / ―   \
           /  ●    \     新しい名前ってどんなんだお?
           (_,、_,) ⊂⊃   |
           >       ィ’


               .ノ 、 、
                  ● ●) l       旦那さんが決めはるこっちゃからなぁ。
               (人__) |
               ヽ    ノ       けど、最後に『夫』が付くのは
               /    ヽ
                 l|    | l      間違いない思うで。
                (|    |_)
                    し   .J


.

128 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:43:48 ID:XDxaaqIE0


                ____
               /―  ―\
             /  ●   ● \
             | ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|     『夫』?
             ヽ       i⌒ヽ
             /       λ  )


                  , ノ  、 、
.                l(● ●)|       せや。
.                | (_人_) |
.                 ヽ    ノn      ウチの奉公人はみんな、なんちゃら『夫』ちゅうねん。
                   /      ,た)
              ||    「       番頭のいく夫はん、手代のドヤが夫はん、丁稚のわる夫、
.                 (|      |
              .し    J       そういう決まりなんやな。


.

129 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:44:20 ID:XDxaaqIE0


               ____
              /―  ―\
            / ●   ●  \     ふーん……
            |⊃ (_,、_,) ⊂⊃ |
            >           ィ’


                  , ノ  、 、
.                l(● ●)|
.                | (_人_) |        ま、名前決まったら
.                 ヽ    (V)
                   /      ,た)      その名前で呼んだるさかい。
              ||    「
.                 (|      |        さっきの名前は胸の奥に大事にしもとき。
              .し    J


.

130 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:44:57 ID:XDxaaqIE0
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                             ┃
                                ・
                                ・
                                ・
                               :
                               :
                               :
                             |



                             |
                             ¦
                                  !

131 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:46:37 ID:XDxaaqIE0


            その頃、帳場ではダディといく夫が片づけをしていた。

           いく夫が美濃志摩屋からの文を見ながら溜息をつく。


             _____
            /:::::::::::::::::::::::::::.\
           |.::/⌒Y⌒ヽ:::::::::::.|
           | ノ   \  i:::::::|
           |(─) (─ ) 〈::::::|
          (⌒(__人__)⌒:::: @)        はぁ……
           |  |r┬-|  u  |
           \ `ー'´    /
          ,-- ゝーー ___/ /ゝ--、
         イ / |.!、 _____ / ノ |   i
         | i  |,/(__)ヽ/   |   l


           /\___/ヽ
          / ,,,,,,,ノiヽ,,,,,,:::i|li:\
       .   |(○),   、(○)、 :|
         | ⌒,,ノ(、_, )ヽ⌒ u.:::|
       .   |.u   (^・^>  。.:::::::|        いく夫、そう何遍も溜息つきないな。
          \ ゚  ⌒´ u .::::/
       ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、       店の空気まで辛気臭うなるやないか。
       :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
           |  \/゙(__)\,|  i |
           >   ヽ. ハ  |   ||


.

132 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:47:06 ID:XDxaaqIE0


          _____
        /.::::::::::::::::::::::::::.ヽ
        |.:::::::::γ⌒Y⌒ヽ::.|
        |::::::::/ \:三::/i:::|        旦那さん、私にはどうにもこうにも
        |:::::::〉( ○)::( ○).|
       .(@ ::::::⌒(__人__)⌒)        得心がいけしまへんのだす。
         |  u   |i|!i|!|  |
        \    `⌒´ ,/        今、この井川屋に、
     ,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.
     :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i      新しい丁稚を入れる余裕はおまへん。
        |  \/゙(__)\,|  i |
        >   ヽ. ハ  |   ||


          /\___/ヽ
         /''''''   '''''':::::::\
      .   |(●),    、(●)、.:|
        |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, u::|       丁稚は賃銀なしのただ働きやで。
      .   |  u `-=ニ=- ' .::::::|
         \  `ニニ´ .u ::/       食べる量かて知れてる。
      ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ーーノ゙ -、
      :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i      商いの余裕は関係ないやろ。
         |  \/゙(__)\,|  i |
         >   ヽ. ハ  |   ||


.

133 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:47:50 ID:XDxaaqIE0


       _____
     /.::::::::::::::::::::::::::.ヽ
     |.:::::::::γ⌒Y⌒ヽ::.|
     |::::::::/ \::::::::/i:::|       美濃志摩屋の旦那さんも、あれが釜炊きの際、
     |:::::::〉( ●)::( ●).|
    .(@ ::::::⌒(__人__)⌒)       天草を煮る匂いを嗅いで戻した、と書いてはりますで。
      |      ` ⌒´  |
     \         ,/       天草の匂いを嗅いで戻すようなもんに
  ,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.
  :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i      井川屋の丁稚が勤まりますやろか?
     |  \/゙(__)\,|  i |
     >   ヽ. ハ  |   ||


      __/ヽ_∠L_
     /:::::::     ''''\
  .   |:::::::::    (●), |
    |::::::::      ,,イ_,`)
  .   |:::::::::      ノ.-=ラ        井川屋は問屋やで。
     \:::::::      `フ
  ,,.....イ.ヽヽ::  、 -─'--、       もう天場に立つこともないやろ。
  :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
      |  \/゙(__)\,|  i |
      >   ヽ. ハ  |   ||


.

134 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:48:21 ID:XDxaaqIE0


       _____
      /.::::::::::::::::::::::::::.ヽ
     |.:::::::::γ⌒Y⌒ヽ::.|
     |::::::::/ \:三::/i:::|
     |:::::::〉( ○)::( ○).|
    .(@ ::::::⌒(__人__)⌒)        私は、
      |  u   |i|!i|!|  |
      \    `⌒´ ,/         心がけのことを申してますのや!
   ,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.
   :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
      |  \/゙(__)\,|  i |
      >   ヽ. ハ  |   ||


        /\___/ヽ
       /ノ⌒'" `'ー-、::::\        いく夫、そら無理ないで。
    .   |  (●),、(●)、  .:|
      |   ,. (,、_,、)、_   .::::|        鶴之助は美濃の国の山育ち。
    .   |   {,`ト===イ ,}  .::::|
       \  ヾニノ  .:::::/        海藻を煮る匂いは初めてやったはずや。
    ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、
    :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i       天草を煮る匂いはお前はんもよう知ってるやろ。
       |  \/゙(__)\,|  i |
       >   ヽ. ハ  |   ||      初めて嗅いだ人間が戻すのは当たり前やないか。


.

136 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:48:54 ID:XDxaaqIE0


      /\___/ヽ
     /''''''   '''''':::::::\
  .   |(●),   、(●)、.:|       それよりも、や。
    |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
  .   |   `-=ニ=- ' .:::::::|       美濃志摩屋の旦那さん、
     \  `ニニ´  .:::::/
  ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、       鶴之助が夜通しの凍て作業にも音を上げず、
  :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
      |  \/゙(__)\,|  i |      身を粉にしてよう働いた、て書いてはる。
      >   ヽ. ハ  |   ||


       __/ヽ_∠L_
      /:::::::     ''''\       仕込みに厳しい美濃志摩屋でさえ、
   .   |:::::::::    (●), |
     |::::::::      ,,イ_,`)      『見所あり』ていうてくれてはるんや。
   .   |:::::::::      ノ.-=ラ
      \:::::::      `フ       あれはうちで育てる。
   ,,.....イ.ヽヽ::  、 -─'--、
   :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i      これは私の決めたことや。
       |  \/゙(__)\,|  i |
       >   ヽ. ハ  |   ||


           _____
      ..   /.:::::::::::::::::::::::::::ヽ
      ..   |:::::::γ⌒^Y⌒ヽ :.|
      ..   |:::::::::/ ._ノ  ヽ  ..|
         |:::::::〉 ( ○) (○)|
      .  (@ ::::⌒(__人__)⌒)   旦那さん……
          |  u   |r┬-|  |
          \    `ー'´ /
      ,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.
      :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
          |  \/゙(__)\,|  i |
          >   ヽ. ハ  |   ||


         主にそうまで言われては、番頭は黙るしかなかった。


.

137 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:49:47 ID:XDxaaqIE0


                いく夫はしばらく俯き、やがて顔を上げると、

                     畳に両手をついて言った。


           _____.
          /:::::::::::::::::::::::::::::::\
        /,,| ::::γ⌒^Y⌒ヽヽ::::|
       /,/|:::::ゝ \   / |::|          そしたら旦那さん、
       /⌒(@::..( (●)  (●) |⌒ヽ
      /  /|::::.u⌒(__人__)⌒|/ヽ_ \      ひとつだけお頼もうします。
      ( ⌒ー-ィ⌒ヽ、   /⌒`ー'⌒  )
      `ー──ゝィソノー‐ヾy_ノー─"




           / ⌒`"⌒`ヽ、
           /,, / ̄ ̄ ̄ ̄\
          /,//:::::::::::::::::::::::::::::::::\         天神さんへの銀二貫、
         ;/⌒'":::..:::::::::::::::::::::::::::::::::|⌒ヽ
       /  /、:::::..:::::::::::::::::::::::::::::/ヽ_ \     何とか……何とか一日でも早うに……
     __( ⌒ー-ィ⌒ヽ、:::::::/⌒`ー'⌒  )
    ━━━`ー──ゝィソノー‐ヾy_ノー─"


                    そう言って、顔を畳に擦りつける。


.

138 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:50:39 ID:XDxaaqIE0


        いく夫は天満宮に厚い信仰心を抱いていた。

      これまで幾度も大火に遭いながら命を長らえたこと、


        Π                                Π
        旦三l二二l二二l二二l¨/^\¨l二二l二二l二二l三旦
        /               //'^\\               ∧
       /             //`¨O¨´\\             ∧
      /            // 〔王l王l王〕 \\           ∧
      /          </=======\>.          ∧
     /    ,′                              `,   ∧
    /    /             γ´三三三ヽ           \   ∧
    /    乂ゞ 、        /゙/  ◎   ヾヽ         , 彡丿  ∧
   ≪亞亞亞`<三三三三三彡` ‐-((t))-‐ ´乂三三三三三彡´亞亞亞≫
        | |        | |l〈〉ll=(Y)=ll〈〉l| |        | |
        | |        | |l〈〉ll=(Y)=ll〈〉l| |        | |
        | |        | |l〈〉ll=(Y)=ll〈〉l| |        | |
        | |        | |l=ll=(Y)=ll=l| |        | |
        | |        | |l=ll=GQ=ll=l| |        | |
        | |        | |l=ll=.从.=ll=l| |        | |
    o     | |        | |l=ll=ll=ll=l| |        | |    o
    ||=ll=ll=ll=ll=ll=ll=l┌―――‐┐f=ll=ll=ll=ll=ll=ll=||
    ||_||_||_||_||_||_||_||l_.奉納_.!.l|_||_||_||_||_||_||_||
   [二二二二二二二二二二二|l三三三三l|二二二二二二二二二二二]
     | .|:::::::::::::::::::::::| .|::::::::::::::::::::::|l三三三三l|::::::::::::::::::::::| .|:::::::::::::::::::::::| .|
     凵:::::::::::::::::::::::凵::::::::::::::::::::::|l三三三三l|::::::::::::::::::::::凵:::::::::::::::::::::::凵
                //_ _ _ _ _ _ \\
              //_ _ _ _ _ _ _ _\\
            //_ _ _ _ _ _ _ _ _ \\
           //_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _\\


          この度の天満焼けでも守られたことを、

      彼はひとえに天神さんのおかげと信じて疑わないのだ。


.

139 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:51:09 ID:XDxaaqIE0


   だからこそ、寄進をふいにした主の短慮が許せないのだろう。


                / ⌒`"⌒`ヽ、
                /,, / ̄ ̄ ̄ ̄\
               /,//:::::::::::::::::::::::::::::::::\
              ;/⌒'":::..:::::::::::::::::::::::::::::::::|⌒ヽ
            /  /、:::::..:::::::::::::::::::::::::::::/ヽ_ \
          __( ⌒ー-ィ⌒ヽ、:::::::/⌒`ー'⌒  )
         ━━━`ー──ゝィソノー‐ヾy_ノー─"


          /\___/ヽ
         / ''''''    '''''' \
        │:::::::(ー),  、(ー) l
        │/')   ,,ノ(、_, )ヽ、,,, │
         /‐:::  `-=ニ=- ' /       いく夫、
       _,,,l ;! |:::______/
    , -‐'゙゛ i::..  | .ヽ/;ヽj! `‐-、_       堪忍やで。
    l     ノ::. .:|、 .ヽ,:ヽ|   <゛~ヽ、
   ,:''`` ''"゙.|;;:‐''゙|.ヽ、 ヽ;::|   /  .|゙l
   ,:     ヽ::il;;!  ヽ、ヽ|  /   | :|


           ダディは十五歳下の番頭に詫びた。


.

140 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:51:33 ID:XDxaaqIE0


           __/ヽ_∠L_
          /:::::::     ''''\
       .   |:::::::::    (●), |        お前はんの気持ち、私は忘れてへんからな。
         |::::::::      ,,イ_,`)
       .   |:::::::::      ノ.-=ラ        銀二貫を貯めるは容易ではないやろが、
          \:::::::      `フ
       ,,.....イ.ヽヽ::  、 -─'--、       これからまた商いに精出して、
       :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
           |  \/゙(__)\,|  i |      必ず、寄進させてもらうよってに。
           >   ヽ. ハ  |   ||


        /\___/ヽ
      /''''''   '''''':::::::\
    .   |(●),   、(●)、.:| +
      |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|           せや、今から天神さんに
    .   |   ´トェェェイ`  .::::::| +
      \  |,r-r-|  .::::/     +      そう言うてくるさかい。
    ,,.....イ.ヽヽ、`ニニ´ーノ゙-、.        /^)
    :   |  '; \_____ ノ.| ヽ iヽ __ ‐┘(
       |  \/゙(__)\,|  i |´⌒ )二  ト、


.

141 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:52:49 ID:XDxaaqIE0


     _____
   /.::::::::::::::::::::::::::.ヽ
    |.:::::::::γ⌒Y⌒ヽ::.|
    |::::::::/ ノ   ― |
   |:::::::〉 ( ○) (○)|       えっ?
   (@ ::::⌒(__人__)⌒)
    |     |r┬-|  |       旦那さん、今からでっか?
    \    `ー'´ /
,,.....イ.ヽヽ、___ ーーノ゙-、.       もう五つ半だすで?
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
    |  \/゙(__)\,|  i |
    >   ヽ. ハ  |   ||                  【五つ半】午後九時


     /`ー──一'\
    ,r(●)(、_, )、(●)\
 .   |  '"トニニニ┤'` .:::|
   |.   |    .:::|   .::::|
 .   |   ヽ  .::::ノ .::::::::|      今からは今からや。
    \   `ニニ´ ..::::::/
 ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ーーノ゙ -、      せや、鶴之助も連れて行ったろ。
 :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
    |  \/゙(__)\,|  i |
    >   ヽ. ハ  |   ||


.

142 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:53:31 ID:XDxaaqIE0


       寝入りばなを起こされた鶴之助は、

       朦朧とした様子で主人の前に座る。


         ____
        /―   ―\
      /  〓    〓 \    鶴之助、参りましたお。
      | ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|
      ヽ         ィ’


      /\___/ヽ
     /''''''   '''''':::::::\
  .   |(●),   、(●)、.:|
    |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
  .   |   ´トェェェイ`  .::::::|     すまんな、鶴之助。
     \  `ニニ´  .:::::/
  ,,.....イ.ヽ`ー `ニ´ ―ノ゙-、     ほな、ちょっと行てくるさかい、
  :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
      |  \/゙(__)\,|  i |    後は頼むで。
      >   ヽ. ハ  |   ||


.

143 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:53:58 ID:XDxaaqIE0


            淡い月の夜だった。

 鶴之助が提灯で主人の足元を照らしながら、夜道を行く。


                         /\___/ヽ
                       /''''''≡≡'''''':::::::\
                 .       |(●),   、(●)、.:|
                       |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
                 .       |   `-=ニ=- ' .:::::::|
                       \  `ニニ´  .:::::/
                        /:: ::\  //::::: \
                        /:: :: ::ヽ\//;: ::i;:::::\
                       /:: :: :: :: ::\/:: : ::|;;;;;;;::::i
                      f´:: ::i;;:: :: :: /:: :: :: :|;;;;;;;;:::|
                     __r''ヽ:::|;;;;::/:: :: :::;;;;;:::ヽ;;:: :ノ
                    i"  )ノ:: ::と;;;;:___;;;;;;;;;;f゙;;ノ
      ___          `l Tl::U:::/|;;;; ______:;;;;;{
     /─  ─ \        |. | |:: :丿|:: :: :: :: :: :: ;;;;;;;;:: |
   / 〓  〓   \       |. | `'''"l;;|:: :: :: :: :: :: ;;;;;;;;:: |
   |⊃ (,_、,_) ⊂⊃ |      | |    |;|:: :: :: ::;;;;;;; :: ::;;;;;│
   \           /       | |.   |;|:: :: :: :: ;;;;;;; :: :;;;;: |
   ,.ノi        \       | |   |;;|;;:: :: :: ;;;;;;;:: :: ;;;;:: |
   ーイ       ├‐'       | |   ー!、:;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::;;;;;;;ノ
     ヽ  ァ   ./         l |     〉. !,    ノ  !、_
      \〈_/         !_|  、‐''゙ _)   (____ヽ
        `ー′


.

144 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:54:37 ID:XDxaaqIE0


  銀二貫を寄進し損ねた後ろめたさから、ダディはお参りの足が遠のいていた。


          iv'ヘ
          | ;`;|
 . . . . . . . | ;'l:|           i'`'i             、   、"''''"´ . . . . . . : : . :
. . . . .    _,;::!:`l'|  ζ\     |;`;|             ∥   . . . . . . . . . . .. . . . ,.,:::
     ._,. :.':"..._|_.;l:|   \';、\  :|':i;;|     .  i'1   ||/>     ,, ,.,.;,;::::,:::::;''" ..:.::;':;
  _.....:;;:;:;::';::':':'"|_}:;|    \';、.\|;';;;|   ./〉 |;|_r//:;:':''"゙"゙゙'..:::::.::;::;:::;:::;:;';';:::';'::'''"
 ` ´ ...:.,.._   |_|`|_r:‐:‐:‐:‐\';、\;| r‐//┐_|:|::::::::;⊥:';'"'''` .;:;'、;':'":'"  . .
,.,:'".,:::;:':;'' .   |_};|::::::::::: : :: : {二l\;i`!、::://:::::::::::::::::::r| .::| . . . . . : : . :
';'::'''"       |_| ̄/\:::::::/`|_{┬| |;、\::::::::i'|::::::r┴冂、、     , -─'゙7´ ̄ ̄ハ─r‐
    、v,..v、  |_}::/ 、';';〉.:/ /{_|┴lニニニニニl.r┴、_|_|_|:彡v、./ /.:: .::./....::/ ,::'.ソ;:::
─'ー;;ミ゙'爻爻ミ;.. |_;l'_;_;_∠;/_/___l_,,:;;}┬┴┬┴┬┴┐::| .:::|彡ミx;: -─: ッ淼w ー ywv、‐ー
゙':;ゞ;爻彡炎炎;ゞ~゛'' ┘⊥ 」_ |  |{_|┴┬┴┬┴┬┴┤ .:|彡ミメ゙';ヾ: ;:; ';: ;:; 'ヾ淡炎ミミx:;'
'' ;~ ;^::;”v:";y;''゚  ; ::;y  ; ::; : ~゛'''' ┴'::⊥Λ二\.:|  .:|ー:| ;~ ;y ::; : ;:; 'ミ゙': ;: ',;:; ;~'',;'':; ;
";: ;: ;: ;:  ; ::; : ;:; :; :  :: :; : ;:; ;~'',;' ' : ;:; ;~ ; ::; ;~'',;''  ; : ; ::; :;~'',;:; ,”v:": ;:; ';v:'';'' ;~'',;'
:  ;:; ;~ ;  :; ;~ ',;''   ; : ; ::  :; ~'' ,;: ; : ;: ;  : ;:; ; ~'',;'   ;:;   '゚ ":;;;: :  ;  : ;:
:;   . ;: ; ; '', ;' ' .;~' ', ;'  '゚ ".  .  ;;  :  ;   : ; : ;:   . ; :; ;~ ;  :; ;~  ',
 :  ; .'  :   ; .     ;  .  ; ' :  '  ;~  ',  . .  . '  :   '',  ; ' '  ;  '


               久々に見る天満宮の境内には、

       放置された本殿の跡が月明かりにぼうっと浮き上がっている。


.

145 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:54:55 ID:XDxaaqIE0


          ダディは申し訳なさに胸が潰れそうになる。


       /\___/\
     /        ::\
   .  |               :|     (寄進も集まらへんから
   .  |   ノ   ヽ、   :|
   .  | (●), 、 (●)、.:::|          普請も進まんのやな……)
     \ ,,ノ(、_, )ヽ、,, :/
     /`ー `ニニ´一''´\


         .___
        ./ノ  ヽ_\
      / ●   ●  \      …………
      |⊃ (_,、_,) ⊂⊃ |
      >        ィ’


     鶴之助は主に寄り添い、無言で荒れた境内を見つめていた。


.

146 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:55:19 ID:XDxaaqIE0


      ダディは荒れた境内に向かって深く一礼し、無言で誓いを立てる。


    /\___/ヽ       (天神さん、このたびは相済まんことです)
   /       :::::::\
.  |          .::::|     (どんなに時間がかかろうと、
.  |          .::|
.  |  ー,   ー  :::::|      必ず銀二貫寄進させてもらいますさかいに
   \ ,,ノ(、_, )ヽ、,,.:::/
   /``ーニ=-'"一´\                  どうか勘弁したってください)



    /\___/\
   /         ::\       (それと、天神さんから預からしてもろたこの鶴之助)
.  |  ─   ─    |
.  | (ー), 、 (ー)、 |       (必ず、一人前の商人として育て上げて見せますさかい
.  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
   \   r‐=‐、  .:::/                             見とってください)
   /`ー `ニニ´一''´\


      ____
     /―  ―\
   / 一   ー  \          …………
   |⊃ (_,、_,) ⊂⊃ |
   >        ィ’


      主の祈る姿を見て、自然に鶴之助も頭を垂れて手を合わせる。


.

147 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:55:56 ID:XDxaaqIE0


     長い祈りの時を終え、ダディが顔を上げる。


      /\___/\
     / /    ヽ ::\
  .   | (●), 、 (●)、 .::|      天神さんに、
    |  ,,ノ(、_, )ヽ、,   .:::|
  .   |   ,;‐=‐ヽ   .:::::|      ようお願いしたか?
     \  `ニニ´  .::/
     /`ー‐--‐‐―´´\


        ____
       /⌒  ⌒\
     / ●   ●  \       はい…いえ、
     |⊃ (_,、_,) ⊂⊃ |
     >  ヽ._)    ィ’      へえ。


      /\___/\
     / ⌒   ⌒ ::\
  .   | (●), 、 (●)、 .::|      よっしゃ、
    |  ,,ノ(、_, )ヽ、,   .:::|
  .   |   ト‐=‐ァ'   .::::|      ほな行こか。
     \  `ニニ´  .::/
     /`ー‐--‐‐一''´\


  律儀に返事を言いなおす鶴之助に、ダディが笑みを返す。


.

148 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:56:16 ID:XDxaaqIE0


      /\___/ヽ
    /''''''   '''''':::::::\            せや、お前はんに一遍、
  .   |(●),   、(●)、.:| +
    |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|            大坂の町を教えといたろ。
  .   |   ´トェェェイ`  .::::::| +
    \  |,r-r-|  .::::/     +      眠たいやろが、
  ,,.....イ.ヽヽ、`ニニ´ーノ゙-、.        /^)
  :   |  '; \_____ ノ.| ヽ iヽ __ ‐┘(    まあ辛抱してついて来なはれ。
     |  \/゙(__)\,|  i |´⌒ )二  ト、


        ___
       /ノ  ヽ_\        へ、へえ。
     / ●   ●  \
     |⊃ (_,、_,) ⊂⊃ |     (こんな夜中に歩いても、何もわからないお)
     >        ィ’


                不精不精、鶴之助はうなづく。


.

149 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:56:45 ID:XDxaaqIE0


          天神橋を渡り、東横堀川に沿って南に下る。

         絶えず、擦れ違う者や追い越していく者が居た。


      /ロロロロロロ.\
ノ从 (")  、| 日門日|ノ'、| i | ___,,,..........,,,__li___,,,..........,,,__   li レ|i i i| |.|
/ロロロロロロ.\,,ミ 彳ゞ 木 / ,~ ,~~  ,~~ ~~~\ i /ロロロロロロ.\
、| 日門日|`|li|  i i_,,,-ー~~ ̄    ~~    ~~~    \、| 日門日|
,,ノi|i Lノl__,,,,,-ー''"~  ~~    ~~~~ ~  ~~ ;;;;~\` 、 l /ロロロロロロ.\
-ー''"~   ~~     ~~ ;;;;;;  ~~ ;;;;;;  ~ 、| ~   \ ` 、| 日門日|
___.○______,○______,○___\_ __,○___\____,○__
___| |______| |______| |______| |______| |_
|||| |||||||| |||||||| |||||||| |||||||| ||
|||| |||||||| || ∧_∧ || |||||||| |||||||| ||
|||| |||||||| ||( ´∀`) || ||||| || |||||||| ||
====__=======(    )============== .∧,,∧==
     ヽ|__ノ)    モォ ((  人 Y             ,ハ,,ハ       ノリノリハレリ
       (‘-‘ ハ   _)_, ―‐ 、し(_)    ∧,,∧     ( ゚ω゚ )     パー゚,ノリハ
     /(Y (ヽ_ /・ ヽ     ̄ヽ     彡・ー・ミ    ノ^ yヽ     リ( †リとリハ
      ノ___ゝ  ` ^ヽ ノ.::::::__( ノヽ    と @つ    ヽ,,ノ==l ノ   ハ/  '' ヽハリ
      _/ヽ      /ヽ ̄ ̄/ヽ        |  ,O     /  l |.,,   リ<ノ、ノ_,i_,ゝハ


.

150 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:57:08 ID:XDxaaqIE0


           山育ちの鶴之助は、不思議に思えてならなかった。


       ___   ___
     /ノ  ヽ__ ≡u ノ \
   /●   ●      ●  \  (な、なんでこんな夜中に人通りがあるんだお?)
   | (_,、_,) ⊂⊃  ⊂⊃ (_,、_,)|
   >u⌒     ≡    ⌒ ィ’


           故郷ならば、とっくに皆が寝静まっている時刻である。


.

151 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:57:43 ID:XDxaaqIE0


          いよいよ順慶町の通りに入ると、鶴之助は両目を剥いた。


                                    ,l ゞ:〃            ______
                                       ,l ゞ:〃 :::::::::::::::::::::::::::::::r" |∥∥∥∥∥
    ゚゙'ー、,,,                               ,l ゞ:〃        ,,,r'" l|  |∥∥∥∥∥
    ゚゙'ー、,, ゙゙`ー、,                         ,,l ゞ:〃:::::::::::::::::::::;r゙゙|::::::::::l|   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
       ゙゙゙゙',ー、,. ゙゙'ー、_                         ,l ゞ,.〃      ,r''|::::::|;;;;;;;;;;l|
        .ll  .゙゙''ー,,, ''ー、,_ _              ,l゙ゞ;〃:::::::::::;;rl|::::::|;;;;;;|::::r''''l| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
        .ll いら  ~~゙lー、、:i┿l|              l:ゞ〃 . ,,,r'" l|;;;;;;|::r''|;;;;;;;;;;l|
        .ll  しゃい   lミミl*li温l|ヽi:ー,、        彡~〃彡'"''',,r''' l|::r''|;;;;;;|::::::::::l|
        .l:──--、、、...lミミl*il丿l|__li゙゚態N、、 ,       l l㌍'''"、__r''__,、、l|;;;;;;|::::::|;;;;;;;;;;l| :::::::::::::::::::::::::::::::
    , l l l llll|ミミミミミミミlミミl*ll泉l|~~トlー-i゙l~~冫     ~ |゚l、.丿彡彡彡l|::::::|;;;;;;|::::::::::l|
      lj,,',,',,',,',,',,',,',,',,',,',,',lミミl*ll丿l| llヾヾiー ゚l゙~i:!』,,    l『』i゙゙゚゙:lヽ ̄ ̄l|;;;;;;|::::::|;;;;;;;;;;l| ::::::::::::::::::::::::::::::::
      l|  l   .l    lミ.8 8 8 8 ∧∧,;"「」 []  λλ i~ll"|..| ̄~l|::::::|;;;;;;|::::::::::l|
      l|  l.∧∧  ,、,、 n n ∧∧(  ,,) (*´ロ`) (´v`*) ノリレ,, ノリルレ ,::::::|;;;;;;;;;;l|
      l| ...(*´ⅴ) (-^* )::::::::) ∧∧(∩_∩ (~ ノ-(  ノ (-・ (゚- ゚*ノリ.;;;;;|::::::::::l|
      ,-'" (   ヽ(゚*  ) )   ( `ー) (∀・,,) vvv 〉 ノ 〉   l i_)(Y ノ.|::::::|;;;;;;;;;;l|
   ,-"´   ノ  〉 (   )    (   ) (   ) (v` )         Y ノノ~~'ゝ ∩∩ .∧∧.:::::::::::::::::::::::::::::::
  ∧w∧  ▲,,,▲  (  (    (/`ヽ) 〈 ヽ (   )ノリルリ λλ (__) し`J (::::::::::).(:::::::::::)
  ( ・∀・)(∀`  )    ∧_∧  ∩_∩  し' Jノリ゚ ー゚(ー ` )   ∧∧ ∧_∧::::::::つ.:::::::::::::::::::::::::::::
  と    )(    )    (@Д@* )(´∀`*)     ( つ (v,と)   (   ´)(゚   ):::::::::| ______
   Y  人  Y  人    (つ<V>)と  <v>)    /~~~~ Y 人   と  | |   |∪∪.┌───┐
   (_)`J (_)`J    |  | |  人  Y     ^^Uヽ)(__)ヽJ   |   ~ |   ~.l  │∥∥∥│


                   一帯が、人、人、人、で溢れている。

  両側に明々と掲げられた提灯、その灯りの下ではありとあらゆる品が屋台見世で売られている。


.

152 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:58:13 ID:XDxaaqIE0


       ____
      /―  ―\
    /.u ●   ● \     旦那さま、
    | ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|
    \    n,っ  ィ’     今日は祭りか何かなのですかお?
     (  m/  ノi  )
     乂_  イ _ノ


    /\___/ヽ
   /''''''   '''''':::::::\
.   |(●),   、(●)、.:|
  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|       違う違う、ここらはいっつもこうなんや。
.   |   ´トェェェイ`  .::::::|
   \  `ニニ´  .:::::/       けんどよう見てみ、どの店も繁盛してるようで、
,,.....イ.ヽ`ー `ニ´ ―ノ゙-、
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i      実はそうでもないんや。
    |  \/゙(__)\,|  i |
    >   ヽ. ハ  |   ||


.

153 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 22:59:15 ID:XDxaaqIE0


     ____
    /―  ―\
  /  ●   ● \
  | ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|      言われてみれば……
  ヽ       i⌒ヽ
  /       λ  )


    __/ヽ_∠L_
   /:::::::     ''''\
.   |:::::::::    (●), |
  |::::::::      ,,イ_,`)
.   |:::::::::      ノ.-=ラ      大坂ではな、昼間はおのれの稼業に精を出し、
   \:::::::      `フ
,,.....イ.ヽヽ::  、 -─'--、      それが片付いた夜に、買いもんをするんや。
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
    |  \/゙(__)\,|  i |
    >   ヽ. ハ  |   ||


.

154 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 23:01:13 ID:XDxaaqIE0


    /\___/ヽ
   /''''''   '''''':::::::\
.   |(●),   、(●)、.:|      せやけど、そなに余裕のある
  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
.   |   `-=ニ=- ' .:::::::|      暮らししてないさかいな。
   \  `ニニ´  .:::::/
,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、      ホンマにいるもんしか買わへん。
:   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
    |  \/゙(__)\,|  i |     皆冷やかしばっかりや。
    >   ヽ. ハ  |   ||


      ____
    ./―  ―\
   /  ●   ● \
   | ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|      ふーん……
   ヽ       i⌒ヽ
   /       λ  )


.

155 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 23:01:46 ID:XDxaaqIE0


 つまるところ大坂は、朝から夜まで終日が商いの町なのだ。


   ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::;;;;;::::. ::: .: ,======================
   ::::::::::::::::::::: :::: ::::: :::::;;: .:::. ::: ./:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
   :::.. ::: .:: :: .: .:: ..: ..: :' ..: ..: ; ;; /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
            :: ..: ;;; ::.. ::/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
                : ;;,イ,,二二二二二ニニニニニニニニニニ
     ニニニニニニ@    ヽ||―――升――,;r┬―f ‐r ‐r ‐r
    :::::::::::::::::::::::, へ、   .:.::||二二二| |╋╋|==i===i==i==!==!
    ::::::::::::::::::/, へ ヽ、   .::||―――| |╋╋|^´l`^´l`^l´^!  l
    ::::::::::::/∠二二ゝ、ヽ : : ||―――| |╋╋}  i /ヽ_/ヽ、l  i'
    ::::::/∠二二二二ス  l二二二二二二二|  i!-‐ ー- l  l
      /|ニゝ--------孑 /;;:::;;;::::::::::::::::::::::::: l  ヽ、∀ ,ノ、 ヽ
        | |モ幵幵||幵幵l <元三三三三三三 ヽ、,_,x,_,x_,x,_,x,,_
        | |モ幵幵||幵幵 /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::||
        | |モ幵幵||幵ホ ムニニニニニニニニニニニニニニニニ
      二二二二ニニニ |_|ニニニニニニニニニニニ:i! ト-‐|l| | ̄ ̄|| ̄
     _||__||__||_||_; | ||||||||||||||||||||||||||||||||∥|llii!:|l| |    ||
     _||__||__||_||_; | ||||||||||||||||||||||||||||||||∥|llii!:|l| |   Q||Q
     _||__||__||_||_; | ||||||||||||||||||||||||||||||||∥|llii!:|l{ |    ||
    ∧w∧  ▲,,,▲ ||_; | ||||||||||||||||||||||||||||||||∥|llii!:|l| |    ||
    ( ・∀・)(∀`  )._; | l二二二二二二二二l| |ニ´}.ノリルリ λλ
    と    )(    )  '| |.∧_∧  ∩_∩ . i! |, .ノリ゚ ー゚(ー ` )
     Y  人  Y  人   ...(@Д@* )(´∀`*)  ~  ...( つ (v,と)
     (_)`J (_)`J  ..(つ<V>)と  <v>)    ./~~~~ Y 人
                     |  | |  人  Y     .^^Uヽ)(__)ヽJ


         鶴之助は夢見心地で街並みを眺める。


.

156 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 23:02:20 ID:XDxaaqIE0


    ダディは人込みから鶴之助を庇うように歩きながら、

             考えを巡らせていた。


      /\___/ヽ
     /''''''   '''''':::::::\
  .   |(一),   、(一)、.:|
    |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|      (さぁて……)
  .   |   `-=ニ=- ' .:::::::|
     \  `ニニ´  .:::::/      (こいつの名ぁ…)
  ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゙-、
  :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i     (なんてつけたもんやろ……)
      |  \/゙(__)\,|  i |
      >   ヽ. ハ  |   ||


      /\___/ヽ
     /''''''   '''''':::::::\
  .   |(●),    、(●)、.:|        (鶴之助やから、つる夫……)
    |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, u::|
  .   |  u `-=ニ=- ' .::::::|        (あかん、つる夫ちゅうたら、
     \  `ニニ´ .u ::/
  ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ーーノ゙ -、        三年前に暇だしたあの役立たずと同じ名ぁや)
  :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
      |  \/゙(__)\,|  i |      (縁起悪すぎるわ)
      >   ヽ. ハ  |   ||


            考えはなかなかまとまらなかった。


.

157 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 23:03:02 ID:XDxaaqIE0


        やがて、妙案を思いついたように声を上げた。


      /\___/ヽ
     /''''''   '''''':::::::\
  .   |(●),   、(●)、.:| +
    |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|            せや、やる夫や!
  .   |   ´トェェェイ`  .::::::| +
     \  |,r-r-|  .::::/     +       やる夫がええわ!!
  ,,.....イ.ヽヽ、`ニニ´ーノ゙-、.        /^)
  :   |  '; \_____ ノ.| ヽ iヽ __ ‐┘(
      |  \/゙(__)\,|  i |´⌒ )二  ト、


          ____
         /⌒  ⌒\
       /  ○   ○ \
       | ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|         はっ!?
       ヽ    (_.ノ   ィ’


.

158 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 23:03:44 ID:XDxaaqIE0


      /`ー──一'\
     ,r(●)(、_, )、(●)\
  .   |  '"トニニニ┤'` .:::|      ええか、鶴之助。
    |.   |    .:::|   .::::|
  .   |   ヽ  .::::ノ .::::::::|      お前の名ぁは今日からやる夫や。
     \   `ニニ´ ..::::::/
  ,,.....イ.ヽヽ、ニ__ーーノ゙ -、      井川屋丁稚、やる夫。
  :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
     |  \/゙(__)\,|  i |     それがお前はんなんやで。
     >   ヽ. ハ  |   ||


         ____
       / ノ  ヽ_\
      /  ○ }liil{ ○ \
      | ⊂⊃ (_,、_,) ⊂|      ええっ?
      ヽ     |!i|!|   ィ’
           |ェェ|


.

159 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 23:04:32 ID:XDxaaqIE0


     /\___/ヽ
    /''''''   '''''':::::::\
 .   |(●),   、(●)、.:|
   |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
 .   |   ´トェェェイ`  .::::::|         どや、やる夫。
    \  `ニニ´  .:::::/
 ,,.....イ.ヽ`ー `ニ´ ―ノ゙-、         ええ名ぁやろ。
 :   |  '; \_____ ノ.| ヽ i
     |  \/゙(__)\,|  i |
     >   ヽ. ハ  |   ||


      ____
     /⌒   ⌒\
   /  ○   ○  \
   |⊂⊃ (_,、_,) ⊂⊃|        へ、へえ……
   \    |r┬|    /
        `ーJ


               否も応もなかった。


.

160 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 23:06:06 ID:XDxaaqIE0


     こうして、その日を境に、十歳の彦坂鶴之助は

 「やる夫」という新しい名前で生きていくこととなったのである。


                  ____
                 /一  ー\
               / 〓   〓 u.\
               |⊃ (_,、_,) ⊂⊃ |
               /⌒l       ィ’
              /  /        ヽ
              ヽ_ |       Y  |
                |       |  |
                |       ゛、ノ
                |     |    |
                |    | |   |
                (__ノ ヽ___)


 苗村藩士の子息としてではない、天満の寒天問屋の丁稚として。


.

161 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 23:06:44 ID:XDxaaqIE0











                                           _________|\
                                          [|[||  次章へと続く…    >
                                            ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/


.

162 名前: ◆8epcM/V4rs[] 投稿日:2014/01/03(金) 23:07:59 ID:XDxaaqIE0

第一章は以上です。

第2章の投下は改めてお知らせしますが、

今月下旬とお考えください。

.

コメント

  1. {{comment.num}}

    名前:[{{comment.comment_mail}}] 投稿日:{{comment.comment_date}}ID:{{comment.comment_user_id}}

コメントはまだありません

コメントを書く

名前
メール
コメント( 必須 )

書き込む

コメントに対する返信は ※1 ( 数字は半角 )
まとめ内レスへの返信は >>1000 ( 数字は半角 )